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01.春風に桜舞い、

 西校舎の四階。  用がなければほとんど人が来ない旧教科準備室の中で、六条志荻は頭を抱えていた。 ――というのも、午後一番に控えている入学式で新入生代表なんていう大役をこなさなければいけないからだ。  入学試験では十位くらいを目指して手を抜いたはずなのに(思いのほか試験が簡単だったのか、周りの学力が低いのか)まさかまさかの主席という結果。  勉強を頑張っている生徒には申し訳ないが、これほど嬉しくないことはない。  勉強とは頑張るものじゃない。  教科書は一度目を通せば理解できる志荻にとって、いかに手を抜き目立たないようにするかということに重点が置かれるのだ。  目立つことが大嫌いで大不得意な志荻は、緊張による頭痛と胃痛で吐いてしまいそうだった。いっそ吐いたら早退できるかな。  むしろさっさと終わらせてしまったほうが気も楽になる。はずである。  ステージ下の人たちは皆かぼちゃだ。全員かぼちゃ。新入生も在校生も先生も保護者もみんなかぼちゃだ。 「……ぜんぶ兄さんのせいだ」  何がって、数日前、やけにはりきった兄にばっさりと前髪を切られてしまった。  視界は明るいし、目線をどこに向ければいいかわからない。  前髪という壁があったから前を向けていたのに。 「……おなか痛い」  キリキリと音を立てて軋む腹部に、抱え込んだ両膝に額をつけた。  そもそも、学校に通うつもりなんてなかった。  小学校中学校は義務教育だから、と家から通える小中一貫の小さな学び舎に通っていたが、卒業後は家を継ぐことが決定していたし、志荻もそのつもりでいた。  家を継げば、外へ出ることもなくなるが、交友関係に重きを置いていない志荻にしてみればさして大きな問題でもなかった。  しいて言うなら、不満は自由がなくなることくらい。家に入ってしまえば、六条志荻(・・・・)という『個人』ではなくなってしまう。  特殊な家柄だとわかっているが、そこだけが不満であった。

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