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1異世界で姫抱きキャッチされた

━━━ありえない! なんで空から落ちてんだよ、俺・・・こんなの夢だ!夢であってくれー!  あたり一面のきれいな青い空から、黒髪の青年は落下していた。目元の泣きぼくろが少し魅力的な黒目から、あふれる涙が上に飛び散っていく。 ━━━あぁ、新木世那(あらきせな)。日本で生まれた20年の短い人生だったな。田舎のおやじとおふくろ、親不孝な息子でゴメンな。友達には、俺の秘蔵のエロDVDをやっといてくれ。そしてバイト先の店長、新しいバイトを雇ってくれ。お世話になりました。  走馬灯のように人生を振り返りはじめた新木世那と名乗る青年は、落ち行く自分と別れを告げる。  すると抱えこんでいた腕の隙間から、一匹のヒヨコらしき生き物がモソモソと顔を出す。 ━━━ヒヨコ、無事だったか。でもこれから無事じゃなくなるかも、ゴメン、ゴメンな・・・  ヒヨコは世那の腕の中で柔らかい羽毛をなびかせながら、じっと彼を見つめていた。  いよいよ森らしき地面がはっきり見え始めると、恐怖で世那は目をつぶった。だが腕の中でヒヨコがどんどん膨らんでいくような違和感に、うっすらと目を開けると・・・。 ━━━ヒヨコ、めちゃくちゃでかくなってるー!!!  ヒヨコはもう両手では抱えきれない大きさまでに膨らんでいて、どんどん膨らんでいく。世那は離さないように、羽毛にしがみつくしかない。  やがてふたまわりも大きく膨らんだヒヨコは、地面に派手に激突した。その衝撃で上に乗っかっていた世那は、手を離してしまい放り出された。 「う、うわあぁぁぁぁぁぁ!!!死ぬ!マジで死ぬ!!!」  だが、地面に叩きつけられる衝撃ではなく何かにぶつかって抱え込まれる感触があった。 「俺、死んだ?」  目を開けたら天国かもしれないと、怖くて目が開けられなかった。 「✖✖✖✖✖✖✖✖」 「・・・・・え」    予想外な美ボイスの返事におそるおそる目を開けると、赤い瞳と目が合った。よく見ると、白髪に長めの前髪から覗く赤い瞳のおそろしく端正な顔の美形だ。腰までの長髪で、右側のゆるく編んだ三つ編みが可愛い。耳が尖っているのが気になるが。    世那はアルビノの美形に受け止められ、姫抱きされていた。 「が、外人さんですか?ハロー?」 「✖✖✖✖✖」 「日本語、オーケー?あいきゃんのっと、イングリッシュ」  アルビノの美形は謎の言語で話しており、世那の日本語もわからないようだ。困った顔をすると、美形は世那を地面に下ろした。  ジロジロと全身を見られていたたまれなくなる。 ━━━ここ日本だよな?いや、さっきまでバイトの帰りで普通に日本だったよな?日本在住の外人さんか?とりあえずお辞儀しといて離れよう。 「あの、ありがとうございました」  お辞儀をしてその場を離れようとした世那の腕を、美形が強く掴む。 「✖✖✖✖✖✖」 「あの、ちょっと痛いんすけど、あッ!」  美形は掴んだ力をさらに強くし、世那を逃すまいとする。  その時、世那の頭にヒヨコが飛び乗りピヨピヨと勇ましく美形を威嚇していた。元のサイズに戻ったようだ。 「ヒヨコ、生きてた!よかった!かばってるのか?なんて男らしい」 「下級精霊ごときが、俺に楯突くとは生意気な。焼き鳥にするぞ」 「・・・ん?」 「それにしても、人間が降ってくるとは珍妙な日だ。貴様、何者だ」 「あっ!あっ!なんか美形の言葉がわかる!」 「おい、人間。答えよ」  突然美形の言葉がわかるようになり、世那はちょっと安心した。言葉が通じれば話し合える。 「えーと、俺は新木世那」 「珍妙な響きの名だな。呼びにくい」 「お兄さんは?」 「なぜ人間に答えねばならぬ」 「どっかのお坊ちゃんなのかな?とりあえずどっかに人がいないか?警察とか」 「人里ならば、ここより南に真っ直ぐ下れ」 「ありがとうございます!お兄さん、いい人でよかった」  とりあえず人が居ると安心した世那は、笑顔でお礼を言う。アルビノの美形は、ちょっと驚いた顔をするがすぐ真顔に戻った。 「あの、お兄さんにも迷惑かけれないから、もう行きますね。さいなら」  ちょっと美形がヤバい人だったら面倒なので、世那はそそくさと離れて行く。美形は追いかけては来ないが、じっと世那の後ろ姿を見つめていた。  しばらく道なりに南に進んで行くと、村らしき建物が見えて来た。入り口あたりで畑を耕している年配の男性に声をかけてみる。 「あの、すみません。道を聞きたいんですが」 「あー?なんじゃ・・・!!!!」 「ここってどこですか?村に電話とかあります?」 「おおッ!おっ、ゆ、ゆっーーーーー!!!!!」 「ゆ?お湯?」  年配の男性は驚いた顔になり、世那を置いて村の中へと駆け出して行った。 「あ、あれ?」  世那も男性の後を追って村の中へ入ると、わらわらと集まってきた村人に囲まれる。そして彼らに土下座された。 「えっ、あ、あのー・・・」  土下座した村人のうち、老人が顔を上げて世那に話しかけた。 「勇者様」 「土下座が挨拶なんですか?俺もします?」 「あなたこそ、長年待ち続けた勇者様じゃ!どうか魔王を倒し、我らをお救いください」 「・・・・・勇者ってなに?」 「ピヨっ」    世那の頭の中は、盛大にクエスチョンマークが飛び散っていた。

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