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5夢から覚めても勇者だった
「はっ━━━━━!!!」
セナは突然目が覚めた。天蓋付きのベッドの天井が見える。
「夢って目が覚めても夢なんだ。リアルな痛さだったなぁ・・・」
下肢にはまだ棒が挟まったような感覚と、何かが巻き付いている重たい感触がある。
頭を少し上げて腰のあたりを見ると、白い髪が見える。アディが腰に抱き着いて寝ているのだ。しかもお互い裸だ。
「朝のシチュエーションは腕まくらだろ・・・って違うか。レイプ野郎に抱きつかれてる。離れろ、このッ、変態!」
グイグイと頭を押したり腕を離そうとするがやはりビクともしない。さすが魔王だ。
そうアディは魔王だったのだ。暇潰しにセナを勇者に仕立て上げ、魔王城へおびき寄せてから勇者を美味しく頂いたのだ。途中意識を失いほとんど覚えていない。髪をグイグイ引っ張って八つ当たりする。するとモゾモゾとアディが身じろいだ。
「んっ・・・セナ、起きたのか」
「どけよ、魔王」
アディはセナの腰にキスをすると、身体を起こして伸びをする。そのあとベッドに横になるセナの頬を触れようとしたが、叩き落とされてしまう。
「昨夜はあんなに可愛いかったのにつれないな」
「よくも俺の・・・なんか色々を奪いやがったな!変態魔王!」
「お前が可愛いのが悪い」
「可愛いって・・・ん?ぴよ太が居ないのに、あんたの言葉がわかる?」
「俺の魔力を口にしたからではないか?」
「魔力?口って・・・ぅ」
「下から俺のせー・・・」
「わー!!!!!言わなくていいッ!」
よく異世界で口にした食べ物で言葉がわかるようになるご都合設定は理解したが、その食べたモノがあらぬ所から食べたので言葉にしたくない。
「あっ!ぴよ太!ぴよ太はどこだ!」
痛む腰と尻を我慢して身体を起こすと、アディの腕に掴みかかる。
「焼き鳥はあそこだ」
ぴよ太をまだ焼き鳥のメニューに加えたいらしい。アディが指差した方向を見ると、机の上のバスケット籠の中でスヤスヤ眠るぴよ太が見えた。
「よかった、ぴよ太」
「お前の大事なものは、俺の大事なものでもある。丁重に扱うのは当然だ」
「お前は俺を丁重に扱わなかったよな」
「何を言う。10回くらいはしたかったが、我慢して3回に控えてやったのだぞ」
「何の話?」
「失神したセナと3回致したが?」
「・・・」
聞きたくなかった事実に絶句した。アディはベッドを下りると惜しげもなく完璧なプロポーションボディをさらす。今は自己主張していない下半身の魔王は、そのままでも十分魔王サイズだった。
「入れ」
アディは一言発すると、扉から3人の誰かが入って来た。いや3人というか、3匹?というのも見た目は少年くらいの人間に見えるが、髪からウサギのような耳が生えている。
「ウサギのコスプレ?」
「違う、獣人種。これでもれっきとした魔族だ」
「へぇー、もふもふしたい」
セナは獣人の耳に目が釘付けだ。アディは獣人達に衣服を着せられながら、1番小さいウサギの獣人に命令した。
「ロビ」
「はい、魔王さまぁ」
「お前にセナの世話係をさせる。レベルが1しかないので無害だ、安心しろ」
「かしこまりましたぁ、魔王さまぁ」
「レベル1って言うな!」
ウサギの獣人がベッドまで近付いて来た。薄茶色のふわふわの髪に緑の瞳で、可愛い少年だ。
「ロビと申します。セナさまぁ」
「ロビ君ね、はじめまして」
ロビという名のウサギの獣人は、可愛い声で語尾がちょっと伸びて喋るようだ。
「湯浴みをご用意しましたぁ、こちらへどうぞぉ」
「湯浴み・・・風呂かぁ。そういえば俺の身体、ベタベタじゃない」
「セナが寝ている間に俺が拭いたに決まってるだろう、感謝しろ」
「意外と気は使えるんだな、ありがとう」
昨夜はさんざんな目に合わされたのに、のんきにお礼を言ってしまう。セナは割と礼儀正しいのだ。
ロビにガウンを渡され着込むと、隣の部屋に通される。途中トイレはどうしようとセナは焦るが、その部屋にあって安心する。トイレは重要だ。
「魔王の城って割と文明的なんだな」
意外と広い隣の部屋は脱衣所として利用されているようだ。その奥の部屋にバスタブが置かれた風呂場になっていた。外国映画によく見る感じのだ。
軽く湯で身体を流してもらうと、バスタブの中に入る。セナは正直先に身体を洗いたかったが、風呂の入り方がこちらは違うようだ。しかし風呂はやはり気持ちいいし、異世界で風呂にも入れない環境は酷だ。
「はぁ〜極楽、極楽」
「セナさまぁ、天国に逝きたいのですかぁ?」
「いや、違うけど。風呂では極楽って言うのが定番の台詞っていうか」
「そうなんですねぇ」
魔族はそんなに人間を逝かせたいのか。風呂を堪能したセナは、ロビにいたれりつくせりで着替えまでさせられた。グレーの上着に黒のスボンに。
寝室へは戻らずに、廊下を歩かされて広い部屋に通された。これまた外国の金持ち映画に出てきそうな内装で、長いテーブルの端に座らされる。すると身支度を整えたアディが入って来た。セナの後ろに立って髪を触る。
「触るのやめろ」
「いい香りだ」
「なんかロビがめちゃくちゃ洗うから」
「そうか」
相手は変態魔王だ、気を抜けない。アディが席に着くとまた他の獣人が食事を運んで来た。見たことない料理ばかりで、美味しそうな匂いに釣られてセナのお腹が鳴る。少しアディに笑われた気がするが、思えばしばらく食事をまともにしていないからだ。
「食べるがいい」
「・・・いただきます。ん、んん、うまい!」
「気に入ったか」
「うん」
食べた事はない味がしたが、とても美味しくてどんどん食べる。セナは美味しい食事に、魔王の事を忘れていた。
フォークやスプーンは何本か置かれていたが、テーブルマナーは知らないので同じフォークを使う。アディは綺麗にフォークやスプーンをそれぞれ使っている。
「セナには教えることがたくさんありそうだ」
「むぐ、む、・・・・んっ」
セナはこれが例え夢だとしても、このままこの世界で生きるとしたら衣食住から文化まで色々知らないといけないのではと思った。
出来れば夢から覚めてほしいが、なかなか覚めないので諦めて前向きに考える事にした。
「アディ」
「なんだ?」
「じゃあ、アディが色々教えてくれよ」
「そうしてやりたいが、俺はこれでも忙しい身だ。教育係を付けよう」
「そうか、サンキュー」
「・・・それにしても敬語が抜けたな」
「俺を騙した相手に敬意を払いたくない」
「なるほど、一理ある。だが呼び捨てにされるのもなかなか良いな。食事が終えたら紹介してやろう」
「うん」
セナはまたロビ以外の獣人でも紹介してくれるのかなと、とりあえず食事を堪能する事に専念した。
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