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6勇者争奪戦

 食事を終えてからある部屋に通されたセナは、中で鬼の形相で待ち構える美形と対面する。魔王の玉座の所で後ろに跪いていた、黒髪赤目のマントの美形だ。今はマントをしていないので、黒髪が膝裏まで長いのがわかる。  アディはソファーに腰掛けると、美形に話しかけた。 「ジゼ、こいつはセナだ。俺の愛人」 ━━━━下僕にするとか言ってなかった?  魔王の玉座の所で下僕にするとか言ってたのを思い出す。  そして黒髪赤目のマント美形は、ジゼという名前らしい。眉間にシワを寄せていても美形のままだ。 「こ、こんにちは」 「魔王陛下、なにゆえ私に下賤な人間を寄越すのです」 「下賤な人間ではない、愛人だ。可愛いだろう?」 「いかに魔王の命令といえど、お断り致します」 「頭の硬い男だ。ならばお前好みに調教すればよい」 「あくまで私に押しつける気ですね。よいでしょう、調教して靴を舐める下僕以下にして陛下に献上致しましょう」 「それは楽しみだ」 「いや、俺は靴とか舐めないからね?」  アディは立ち上がり、セナの腰を引き寄せて髪にキスを落とす。 「靴以外も舐める立派な下僕になるのだぞ」 「お前、俺のこと舐めてるだろ」 「お前の目元のホクロのことか?」 「ち、ちがうっ!」 「今夜も可愛いがってやろう。またな」 「あ、こら!待てよ、アディ!」  ひらひらと手を振り、アディは部屋から出てしまう。鬼美形ジゼと2人きりだ。 「うーん、鬼美形さんと2人きり」 「鬼ではありません。吸血鬼です」 「へー、吸血鬼・・・人間の血を吸うアレだろ?」 「ご存知でしたか。話が早く進みそうです」  ジゼはどんどんセナに近づいて来くるので逃げるが、壁際まで追い込まれてしまう。身長差はあまりないが、両手で壁ドン状態でこれが女子なら美形壁ドンで喜ぶかもしれない。  だがジゼは、どうやら吸血鬼らしい。人間の血が大好きなあの吸血鬼だ。嫌な予感しかしなかった。 「なぜ逃げるのですか?仮にも勇者が」 「ゆ、勇者ってのは勝手にアディが付けた役で」 「人間ごとぎが魔王陛下を呼び捨てとは、躾がなってないですね」  顔を寄せられて耳朶を軽く噛まれた。 「あひっ・・・」  ビクッと身体を震わせ、変な声が出た。昨夜の事を少し思い出したからだ。その反応を見てジゼは少し考え込む。  そのまま首筋を甘噛みしてみると「んっ」と一瞬声色を変えたセナが口を手で抑えているのを見て、ジゼはゾクゾクした。 「あぁ、魔王陛下が気に入るのわかりました。少しなら味見していいですよね」 「んっ、や、やめ・・ろ」 「ほら、気持ちいいことだけしかしませんよ。セナ」 「んうッ」  セナは肩を押して逃げようとするが、両手首を掴まれて壁に押さえ込まれてしまう。ジゼは細めの身体だが、吸血鬼だからか力が強い。  そのまま吸血鬼特有の牙を伸ばし、首筋に食い込ませようとした時誰かが呼び止めた。 「おーい、抜けがけは禁物じゃねーのー」    声がした方を見ると窓際に、男が座っていた。短めの銀髪で片方が折れた角を生やし片目に眼帯をしている。背中越しに鱗のある長い尻尾が、ブンブン左右に揺れているのが見える。 「リドレイ、貴様あれほど窓から入るなと言ったのに」 「いいじゃん、俺様は散歩の途中だったし。というか最初に見たときから、その勇者様に目をつけてたんだぜ?」 「魔王陛下に先を越されてしまいましたが」  リドレイと呼ばれた眼帯の男前は、壁ドン状態のジセの背後からさらに壁ドンして来た。身長が2メートルくらいありそうだ。  リドレイは、紫色の瞳でセナを見下ろす。 「よぉ、俺様はリドレイ。仲良くヤろうぜ」 「はぁ、どうも。俺は、セナ・・です」 「ふーん、セナ?変な名前だな」 「おい、親からもらった大事な他人様の名前を変とか失礼だろ」 「・・・」  初対面の相手に言われようのない言葉を投げかけられ、セナは不愉快になる。魔族は人間を見下す傾向にあるようだ。だが何もしていない相手に対しての失言はいかに魔族だろうと、許せる事ではない。  反論されたリドレイは、真顔でセナを見つめる。 「なるほどなぁ、魔王が気に入るわけだ」 「私が先に味見するのですから、リドレイはすっこんでいてください」 「俺様もしたい、3人でいいだろ?」 「え、貴方とですか。嫌ですよ、セナが壊れます」 「じゃあ俺様が口で、お前がケツでいいよ」 「承諾しましょう」 「どっちも断る!!!」  口とかケツとかもうする気満々の会話だ。なんとか回避しようとジセの腕を潜ろうとすると、リドレイの足蹴りが壁にめり込んだ。  押し付けるとかではない、壁にめり込んだ。 「ひぃっ!」 「リドレイ、壁を壊すのやめてください。あとで直してくださいね」 「とりあえずこいつと一発ヤってからな」 「その前に僕が一発やりますぅ」  ドゴンっとリドレイの背中越しに鈍い音が聞こえたかと思うと、前につんのめって来たジゼとリドレイの二人にセナは押しつぶされる。壁とサンドイッチ状態だ。 「く、くるしい・・・」 「ぐっ」 「ぐはっ。何しやがる!ロビ」  リドレイが振り返ると、ロビが可愛い笑顔で立っていた。ウサギ耳がピコピコと動いている。 「ヤリチンのリドレイさんは、魔王さまがちゃんと見張っておけってぇ」 「抜け目ない魔王だな」 「まさか、ジゼさんも狙ってるとは予想外ですぅ」 「不覚にもつい、美味しそうな匂いに釣られてしまいました。とりあえずこの場は引いて、本題のセナへの勉強に致しましょう」 「というか、今の衝撃って」 「ケリだよ。ラビト族の脚力はその辺の魔物より強力だからな。俺様が踏んばってなかったら、お前ら今頃ミンチだったぞ」 「あんなに可愛いのに・・・ミンチ」  ミンチの話は考えないようにして、セナの勉強をするために一同は真ん中のソファーに座った。

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