セナは窓越しに巨大な影が海面へと落下するのを見ていた。外は騒がしく、脱出するなら今しかないと策を練る。足の鎖はベッドの角に巻き付けられているが、ノコギリも剣もないので切るのは無理そうだ。 「なんか、細い針とかないかなぁ」 　鍵を外す方法を探す。よくTVとかで針金とかで鍵を外すシーンがあるのでそれに望みをかける。とにかく細い物を探して見回すと、髪飾りのような物を机の上に見つける。だがどう見ても机まで届かない。 　引き寄せようとシーツを割いて縄の代わりにすると、放り投げてテーブルの脚に絡ませる。そのまま引っ張ると髪飾りはベッドの下まで滑ってきた。 「よし！これで鍵を開けるぞ！」 　セナと鍵の戦いが始まった。 　 　一方外では海面へと落下したドラゴンが再度浮上し、風の守護天使エレスタエルの弓との攻防戦を繰り広げていた。 「しつこい蝿だな。我々を狙っているというより、何か探しているのか。まさか・・・」 　ユーライアはセナが気になり船長室へと戻った。だが、鍵開けに成功したセナが窓を跨いでいる瞬間と鉢合わせし両者とも固まる。 「あ・・・」 「セナ君、どこへ行く」 「さ、散歩？・・・・さ、サヨナラっ！」 「待ちなさい！」 　窓から飛び降り甲板へ着地すると、乗組員がセナを見てギョッとする。そのままセナは船の後ろへと走って行った。端まで来たものの下は海だ。 「どうせなら、救命ボートとかにすれば良かった」 「セナ君」 「うっ・・・」 　振り返ると追い付いたユーライアが仁王立ちしていた。万事休すである。海へ飛び込むか迷うと、上空を飛ぶ銀色のドラゴンが目に止まる。 「・・・リドレイ？」 　見覚えのある銀色のドラゴンといえば、リドレイが浮かぶ。セナは叫んだ。 「リドレイーーーー！！！」 ギュオオオオオオオ 　ドラゴンはセナの声に反応するかのように旋回し、その姿を確認すると猛スピードで船に突っ込んで来た。 「エレスタエル！撃ち落とせ！」 　船首のエレスタエルはドラゴンに狙いを定めて矢を放つが、交わされる。そのままドラゴンは勢いを止める事なく、セナの身体を後ろ脚で掴むと上空へと舞い上がる。 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 　セナの絶叫が上空でこだまする。エレスタエルは矢を放とうとするが、ユーライアに止められた。 「待て、セナ君に当たる」 　ドラゴンはセナを掴んだまま猛スピードで港町の方へと飛んで行った。それをユーライアは眺める。 「セナ君、待っていてくれ。必ず助けるよ。それにしても、セナ君はどこかで見た気がするのだが・・・・まさか」 　ユーライアが思考している間に、とうとうドラゴンは見えなくなった。 　ドラゴンに掴まれたセナは気が付くと、港町の宿屋で寝かされていた。風圧で気絶していたようだ。 「セナ」 「・・・・アディ」 「大丈夫か」 「あ、うん・・・大丈夫。リドレイは？」 「ここだ」 　隣にはアディが心配そうに覗き込み、座っていた。リドレイは腕に包帯を巻いている。やはりあのドラゴンは、リドレイだったのだ。 「リドレイ！怪我したのか！？」 「あぁ、まぁ掠り傷だ。天使の攻撃はなかなか癒えないからな」 「ご、ごめん・・・変態なんかに付いて行ったから」 「よい。俺もお前を1人にしてすまなかった」 「セナ、やっぱり痛い！俺様も抱きしめろ」 　アディはそっとセナを抱きしめると、それを見たリドレイもわがままを言い始める。 「その変態という男は何者だ？」 「名前は、ユーライア。聖騎士とか言ってたかな？」 「あいつ、聖剣持ってたぜ」 「ジゼが言ってたけど・・・クラリシス王国だっけ？聖剣って今はないんじゃ？」 「150年前に俺が破壊したが、まさかまた召喚したのか」 「そんなにホイホイ、聖剣って召喚出来るのか？」 「いや、ある程度の神格を持つ神族と贄となる神の子が必要だ」 「神の子？」 「聖剣を降臨するには神族の加護と、依代となる人間が必要なのだ」 「人間・・・」 　セナは人の命で聖剣が召喚出来るとは、夢にも思わなかった。元の世界では完全にファンタジーな設定だからだ。 　そして触れる事を避けていたが、アディは聖剣ごと町を吹き飛ばしたと言った。それはその人間ごと消滅させた事を意味していた。