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35謎の美女にはご用心

 しばらく進むと、港町までは意外と遠い事に気付いた。以前は魔王城から港までドラゴン化したリドレイに乗って飛んだので一瞬だったが、陸路で行くと数日はかかりそうだ。 「さっきの村みたく良い所もあるんだな。でもなんでロビは山賊やってたんだ?」 「んー?成り行きというか、僕は北と中央に挟まれた大陸に住んでたんだ。割と治安は悪いからまっとうな仕事もないし、生きるのに仕方なくって感じかな。仲間と北の大陸に移ってからも最初は山賊やってたけど、後は前に話した通り」 「なるほど。自分より強いのも居るって教訓したんだな」 「まぁ、そのおかげで自分の菜園も貰えたしセナとも会えたからいいけどな」  ロビは可愛い笑顔で流し目を送ってくるが、受け止めると面倒そうなのでセナは目を逸らした。  すると突然荷台を引く黒虎達が立ち止まる。 「ん?なんで止まるんだ」 「あ、ロビ!前に誰か居る」  前方の道の脇にうずくまる人を発見し、セナは荷台から降りて近付く。大きなストールのような布で頭から顔を隠しているが、どうやら女性のようだ。  顔を上げた女性は、髪は栗色でなかなかの美人だ。 「あの、大丈夫ですか?」 「・・・はい、足を挫いてしまい動けないのです。港町まで帰りたいのですが」 「よければ、送りましょうか?」 「よろしいのですか、ありがとうございます」 「あ、いえ・・・」  女性の天使のような笑顔で、女の子と付き合った事のないセナは照れる。荷台の空いているスペースに座らせてあげると、謎の美女を乗せて出発した。 「お姉さんは、港町に住んでるんですか?」 「いいえ。仕事でこちらに滞在しておりますの。貴方は港町のお方?」 「あ、俺は・・・この辺の村の人です」  まさか知らない人に、魔王城に住んでる勇者ですと言う訳にもいかずに村人を装う。  しばらく森を進むと今度は荷馬車の車輪が故障した商人らしき男性が困っていた。急ぐ旅でもないので、ロビに先に女性を港まで送ってもらいセナは荷馬車の車輪を直すのを手伝う事にする。 「セナさま、本当に大丈夫か?すぐ戻って来るから」 「あぁ、大丈夫だよ。ありがとう、また後でな」  ロビは何度か後ろを振り返りながら、女性を送って行く事にした。ロビ達の荷台が見えなくなると、車輪を直すのを手伝おうと男性に声をかける。 「じゃあ、俺達は車輪を直しましょう」 「はい、ありがとうございます。いやぁ、それにしても先程のものすごい突風に煽られて車輪を壊してしまうとはツイてないですなぁ」 「突風?こんな森の中で?」 「海が近くてもこの辺りで風による被害はないですからなぁ」 「・・・へぇ」  一方、ロビと女性は無言で港町を目指していた。途中、ロビが口を開く。 「・・・で?あんた、何者だ」 「なんの事でしょうか」 「あんたからは、人の匂いがしない」 「わかっていて、私と彼を離したのかしら?」 「まぁな、さっきの荷馬車は想定外の事故だったんだろ?」  女性は正面を見たまま微笑むと、突如風が巻き起こる。一瞬瞑った目を開けたロビは、隣の女性が居ない事で周囲を見回すと上空に人影が浮いていた。  大きな白い翼を生やした金髪の女性。 「わたくしは、風の守護天使エレスタエル。主の命により、貴方を足止めさせていただきますわ」  女性はクラリシス王国の騎士、ユーライアの船に宿っていた守護天使だった。

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