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34優しい村
一晩この始まりの村で泊まることになったセナとロビは、村人達から色々ともてなされていた。意外とこの村の住人は気さくなようだ。
子供達がどうやって魔王様に挑んだのかとか、ドラゴンに乗った事はあるかと質問攻めにしてくる。そして村長がお酒を注いでくれたので、あまり強くはないがありがたく受け取る。
「勇者様は、なぜこの村に?」
「え、えーと・・・世界を見る旅に出ようかなって」
「それは良い心がけですな」
「この村って魔族に支配されてるんですか?」
「支配と言えばその通りですが、魔王様の庇護下に置かれているのですじゃ。元々我々は人間の国から追放された流浪の民。行き場のない我々を魔王様はここに村を作り、置いてくださいました。魔王と呼ばれても、とても寛大なお方なのですじゃ」
「・・・そうなんですね」
以前ジゼの授業でも、この魔族の大陸には獣人や人間も住んで居ると聞いていたのでどんな経緯で住んで居るかはなんとなく理解した。
「南の港町も、流浪の民が行き着くのに迷わないようにと作られましたからのぉ。農耕だけでなく漁業でも生計を立てられるだけで、生きていく事もできましたわい。今の魔王様は本当に良い方ですじゃ」
「・・・」
「勇者様は、魔王様のお城で暮らしていたようですがどうでしたかな?」
「・・アディ・・魔王は強くて偉そうだけど、ロマンチックでもふもふな可愛い奴だったよ」
「そうですか、勇者様も魔王様を気に入ってくださり嬉しいですじゃ。ほっほっほっ」
セナは改めてアディの名前を口に出すと、魔王城での思い出が蘇る。だが自分で出てきたのだ、今から引き返す事はしないと固く誓う。
すると眠いのか頭の上のぴよ太が寝ぼけて転がり落ちる。セナはぴよ太をキャッチした。
「ピヨ〜」
「ぴよ太、眠いのか?」
「おお、これはこれは珍しい。精霊様ですな」
「村長さん、わかるのか?」
「精霊様は普段は我々とは違う精霊界に住む生き物、滅多な事ではこちらの世界には姿を現しませぬ。稀に精霊との結びつきが強い者と共同体となり、守護するとも聞きますが」
「じゃあぴよ太は、俺の守護精霊なのか?」
「この世界の人間は精霊との結びつきが強いので、勇者様もその精霊様に気に入られたのでしょうな」
この世界の人間、村長の言い方に引っかかりを覚えた。そもそもセナはこの世界の人間ではない。その答えを考えようとすると、ロビに声をかけられ明日に備えて寝ようと言われる。
翌朝、セナは村人達から僅かな食料を持たされて見送られた。
「勇者様、またこの村にいらして下さい」
「・・・はい、いつかまた」
その約束は果たして叶うのかはわからないが、セナは優しいこの村人達と約束を交わし村を後にするのだった。
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