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33始まりの村
魔王城も見えなくなった頃、数時間移動したセナとロビは森の中で休憩していた。荷台を引く黒い虎のような動物2匹に、ロビは水をやっていた。そのうちの一匹が座っていたセナに近付いて来たので緊張するが、ぴよ太も平気そうだ。
黒虎はセナを囲うようにして座り寛いでいる。尻尾がセナの頬にフサフサと当たり、撫でたい気持ちになる。
「触って大丈夫かな」
「大丈夫だぜ。調教された魔獣だから」
ロビは魔王城から出ると、元の粗暴な口調に戻るようだ。ロビが言うなら大丈夫だろうと、セナはフサフサの黒尻尾を撫でる。猫のように細くてフサフサの尻尾に癒やされる。
ふと、狼姿のアディもフサフサだったなと思い出した。
「・・・」
「魔王さまのこと考えてるのか?」
「あ、あぁ。アディの狼の毛もフサフサだったなと思って・・・」
「セナさまは、魔王さまのこと怖いのか?」
「どうなのかな。そりゃあ、俺は人間だしこの世界の魔族がどんなものかなんとなくわかってきたけど」
ロビはセナの隣に座る。
「セナさまの世界に魔族はいないのか?」
「人間しか居ないよ。俺はいわゆる孤児でさ、新木夫妻に田舎の山で拾われて育てられたんだ」
「魔族なら見捨てるな。生き残る確率が低い奴は、この世界では生きられないから」
「ロビの親はどうしてるんだ?」
「多分、どこかの大陸で生きてるんじゃないかな。獣人は普通成人すると親と離れて暮らすから、親との関わりが低いんだ」
「・・・そうなのか」
獣人はなかなかシビアな生き物なんだなと、セナはまた一つ勉強した。ロビは見た目は中学生くらいにしか見えないが、成人しているようだ。
「セナさまは、元の世界に戻りたいか?」
「ん?まぁ・・・戻りたいな」
「戻れなかったら?」
「そしたら、普通にここで暮らすよ」
「・・・じゃあ、僕と暮らすか?」
「え?」
ロビはセナの片手をそっと握って、大きな瞳で見つめて来た。
「魔王さまに言われたんだ。もしセナがこのまま魔王城に帰らなければ、僕が守ってやれって」
「アディが・・・?そうか、ロビは割と強いもんな」
「獣人の里なら、人間も一緒に住む所もあるんだ。だから、もし・・・このままなら」
「ごめんな、ロビ。俺は一人でいい」
「・・・・」
セナはロビの頭を撫でると、困った顔をする。
「嬉しいけど、ロビの気持ちにも応えてやれない。お前とは、兄弟みたいでいたいんだ」
「兄弟って・・・セナお兄ちゃんって呼んでやろうか」
「じゃあ、ロビたんって呼んでやるよ。なんか怪しい雰囲気の兄弟っぽいな、ははっ」
「・・・セナさま、そろそろ行こうぜ」
「うん」
ロビはそれ以上追求せずに立ち上がる。ロビの良い所は、感の良さと察するのが早い所だ。だからこの世界で生きるなら、ロビが一番良好な関係を築けそうだった。
♢♢♢♢♢
またしばらく森を走っていると、見慣れた村に到着した。思い出すと、初めてこの世界に降って来た日に勇者に仕立て上げられた村だった。
「ここは、始まりの村!」
始まりの村とゲームによくある設定を思い浮かべる。すると近くから呼び止められ、老人が近寄って来た。
「おお、勇者様ではないですか!」
「・・・・えっと、村長さん?」
「そうですじゃ!その節は大変ご無礼を致しました。魔王様のご指示とはいえ、勇者様を騙す事になってしまいました」
「あ、いや、大丈夫です。今まで・・・魔王様の城で元気に暮らしてたし」
「それは何よりです!よければ今夜はここに泊まりませんか?村一同、盛大におもてなし致しますじゃ!」
「うーん、じゃあ一晩だけなら」
意外といい人だった村長さんに、セナは今夜は村に泊めてもらう事になった。
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