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32魔王に挑むのやめます
全部忘れるかのようにセナはその晩、リドレイに身体を奪われた。目が覚めるとリドレイは寝息を立てながらまだ寝ている様子だ。
セナは身を起こして着替えようとしたが、衣服は魔王の寝室にあるのでどうしようかと考えているとドアのノックの音がする。
「セナさまぁ、起きてますぅ?」
「ロビか?あぁ、起きてるよ。入って」
「失礼しまぁす」
「ピヨ〜」
部屋に入って来たのはやはり、ロビだった。ぴよ太もいて、嬉しさでセナの頭に潜り込む。ロビはセナの衣服を持ってきてくれたようだ。着替えると風呂と食事の用意をしてくれた。食堂にはアディの姿はなかった。
ほとんどアディと食事を共にしていたので、一人で座る席がやけに広く感じる。
「魔王さまのこと、呼びますぅ?」
「・・・ううん、大丈夫だ」
「ずっとこのままですかぁ?」
「・・・いや、俺は城を出るよ。ロビ、見逃してくれるか?」
「いいですよぉ。魔王様もそうなるってわかってたみたいなのでぇ」
「アディが?」
アディは自分がこのまま城を去っても、なんとも思わないのだろうかとセナは少し寂しさを感じた。
自分から去ろうとしているのに、複雑な感情に苦笑する。
「本当に行くんですかぁ?」
「あぁ、アディの事が嫌いになったわけじゃないんだ。ただこのまま魔族の国に居るなら、この世界の事を知らないといけない気がして」
「わかりましたぁ。僕も途中まで一緒に行っていいですかぁ」
「人間の国に行くんだぞ?いいのか」
「僕はセナさまのお世話係なのでぇ」
ロビは可愛いらしく、にっこりとセナに笑顔を向けた。そんなロビの気遣いにありがとうと、少し微笑み返した。
アディと出会わないように配慮してくれたロビのおかげで、旅の支度が整う。そこに起きてきたリドレイが、セナに抱き着いた。
「セナ、行っちまうんだな」
「リドレイ、また会えるかわからないけど元気でな」
「もし迎えが必要ならドラゴンになって行くから、次はちゃんと俺様の背中に乗れよ」
「・・・あぁ」
「セナさまぁ、そろそろ出発しますぅ」
「頼む、ロビ」
荷台を引く2体の虎のような魔物が動き出すと、城の入り口でいつの間にかジゼが立って見つめていた。ジゼは吸血鬼なので陽の光に弱いが、日傘をさして頑張っているようだ。ジゼは無言で西の方を指差した。
目をやると西の塔が見える。そこはロマンチックな夜空の元で、初めてアディとキスした場所だ。縁の上に大きな白い獣が見える。
「・・・アディ」
塔の縁に狼の姿になったアディが、セナ達を見ていた。
アオオオオオオオオオオオン
遠吠えを始めるアディを、セナは切ない気持ちで見据える。アディは西の塔の上で、セナ達が森の中に消えるまで遠吠えをしていた。
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