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402つの聖剣
聖剣から魂現した天使エレスタエルは、そっとユーライアに耳打ちした。
「もうすぐ竜の子と、獣の子が来るわ。早くあの子を連れて行かないと」
「わかっているけど、魔王直々相手だと少しばかり厄介でね」
「そうね」
「だが、目の前に本物の聖剣があるんだ。ここまで来て諦めるには惜しい」
「ふふ、ユーライアはいつも欲しがりさんだものね」
「さて、セナ君。出来ればここは穏便に私とクラリシス王国へ来て欲しいのだが。私の聖剣として」
「もう、何がなんだか・・・」
セナは相変わらず状況について行っていないが、とりあえず変態王子様とのフラグはへし折らねばならないとアディの足裏に隠れた。
「セナは貴様とは行く気はない。大人しく立ち去れ、神族共」
「ピヨッ!」
「仕方ない、乱暴は避けたいのだが・・・」
キイイイイイイイイイイイイン
セナは瞬きした一瞬の間に、ユーライアと人型化したアディが剣を交えていたのをスローモーションのように見つめた。そして自分の身体が後ろへ放り投げられている浮遊感の後に、地面に尻餅をつく。
「うわっ!?」
その衝撃で我にかえると、あちこちから火花の散る様や木々が揺れていた。2人が人間の目では追えないスピードで戦闘している事を感じる。動きが速いので瞬間移動しているようにしか見えない。
「アディ!」
「セナ、港へ走れ!リドレイ達と合流するのだ」
「でも、アディが!」
「俺はここでは死なぬ」
アディは魔王になるほどの強さがあるが、相手は神族。しかもユーライアはおそらく強い。セナは逃げようにも足が動かずにいた。
「ピヨッ」
その時、セナの髪を引っ張るように移動させようとぴよ太がしていた。
「ぴよ太・・・、っ、アディ、待ってろ!」
セナはアディを信じて港へ走り出した。セナの後ろ姿を横目に、アディはやっと戦闘に集中する。
「俺のセナに手を出した事、後悔させてやろう」
「君のではない、私のだ」
「ならば、今一度消滅してもらおうか」
引く気のないユーライアに、アディは魔王としての責務を果たそうとする。ここは魔族の土地。神族を許す事はならない。
アディは魔力で創り出した魔剣を構えると、ユーライアに向かってありったけの魔力を放出するのだった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
一方、全力疾走中のセナはとにかく港の方向へ急いでいた。しばらく走ると、前から人影が近付いて来るのが見えた。
リドレイと、ロビである。
「あっ!ロビ!リドレイ!」
「セナ」
「セナさま!」
セナはさらに急いで走り出すと、両手を構えて待っていたリドレイを無視してロビを抱きしめた。
「ロビ、無事でよかった!」
「・・・セナさま」
「おい、俺様は無視か」
ロビはぎゅうぎゅう抱きしめるセナを、優しく抱きしめ返す。スルーされたリドレイは不服そうな顔をしている。
「アディが大変なんだ!早く助けに行かないと」
「平気だろ、魔王だし」
「僕もそう思うけど」
「いや、なんか150歳の変態騎士の聖剣は偽物で天使のお姉さんだったんだ!そんで俺は地球人じゃなくて、ぴよ太が俺の精霊で・・・」
「とりあえず落ち着こうよ、セナさま」
いざという時は冷静なロビは、セナを落ち着くように促すと事の一部始終をまとめる。
「なるほど、セナさまは本当はこの世界の人間で聖剣降臨に使われたと。魔王様の魔力で異世界に飛んだのかな」
「とんでもファンタジーな世界だな」
「別にセナがどこの世界の人間でもいいけどよ、あの変態野郎に渡すわけにはいかないな」
「僕も同感です」
「ピヨッ」
「もう俺が地球人でなくても、火星人でもなんでもいいけど早くアディを助けよう!」
二人と1匹の意見が合致すると、セナは早くアディを助けようと先を促す。ロビの手を握ると走り出した。
「セナさまってば強引だなぁ♡」
「おい、セナ。俺様の背中で運んでやるからペテン兎野郎の手を離せ」
「え、なに???」
正直、前にリドレイの竜の背中で恐怖体験したセナは出来れば乗りたくなくて聞こえないフリをした。役得なロビは、うっとりとセナに手を引かれている。とにかく3人と1匹は、アディの元へと急ぐのであった。
しばらく走ると先程の場所へと到着するが、すでに決着が着いたようである。地面に倒れるユーライアに、アディが剣を突きつけていた。
「アディ!」
「セナ、もうすぐ終わる。待っていろ」
「・・・強引だな、魔族とは・・ッ」
「そうでなければ神族のように何かを失う事もあるのだ。さらばだ、神族」
「待ってくれ!」
ボロボロのユーライアにとどめを刺さそうとしたアディを、セナが駆け寄り後ろから抱き留めた。
「セナ、なぜ止めるのだ。この神族はお前を利用しようとしたのだぞ」
「・・・でも今は生きてる。アディ、俺はもう何も失いたくないんだ」
その言葉の意味を知るためにアディは魔剣を収めた。
セナは倒れるユーライアに語りかける。
「なんで、あんたはこんな事を?」
「・・・150年前の事だけど・・」
ユーライアは息も切れ切れながらも、ゆっくりと過去の話をし始めた。
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