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41崇高なる魂
━━━━━150年前
人間を魔族から守る象徴として聖剣を降臨させる儀式が行われていた時代。
聖剣は一度その力を使うと消滅してしまうため、魔族との戦争などによって使われる度に召喚の儀式が頻繁に行われていた。
そんなある時も、まだ生まれて間もない一人の子供が聖剣の依代として選ばれていた。両親は子供が人間の繁栄のための贄となる事を誇らしく思っていたが、ただ一人彼の兄だけは違った。
「父さん、母さん!まだ生まれたばかりの弟を捧げるなんて間違ってる!考え直してよ」
「しかしユーライア、儀式が成功して聖剣が降臨なされば我が国は安泰だ。身を捧げたお前の弟もこの国の誇りとなるのだぞ」
「そんな誇りいらないよ!シャーナは僕の大事な弟だ!」
「待ちなさい!ローエン!」
兄ローエンは、弟のシャーナを産着ごと抱えて家を飛び出した。そのまま村を飛び出していく。
どこまで走って来たかもわからないほど村から離れたローエンは、森の中で身を潜めた。
「ぁ〜ぅ〜」
「どうしたの、シャーナ?お腹空いた?ごめんね、水を探すからもう少し待ってて」
兄のローエンはまだ10歳にも満たない年齢ではあったが、賢く思いやりのある子供だった。夜色の髪をもつシャーナの髪を、そっと撫でてやる。
シャーナは触れられるとくすぐったそうに笑った。黒目で目元の黒子が特徴で、きっと将来は端正な顔立ちの美丈夫へと成長するだろう。ローエン自身も金髪碧眼の整った顔立ちをしているが。
「聖剣なんて要らない・・・人の力で魔族から国を守ればいいのに・・・」
「それは無理だろう」
「だ、誰っ!?」
突然聞こえた人の声にローエンは辺りを警戒するが、人の姿はない。
すると今度ははっきりと声が聞こえた。
「人間には私は見えない。まぁ、聞きなさい少年。聖剣がないと脆弱な人間の国なんて簡単に魔族に滅ぼされてしまうよ。彼らは傲慢で他種族に排他的だからね」
「そんな・・・」
「でも聖剣が魂現しているだけで魔族にとって脅威とはなる。君の弟は死ぬわけではない、聖剣として生きるだけだよ。家族や人間を守る立派な仕事じゃないか」
「でもシャーナは、生まれたばかりなんだ」
「大丈夫、聖剣として一度変化はするが人の形を成す事も出来るんだ」
「ほ、本当に?」
「私は神族だぞ?嘘はつかない」
「神族!?神族ってあの伝承の一族の?」
「ああ、私は天使ユーライア」
「天使様!」
幼いローエンでも物語として聞かされていた伝承の一族、神族。彼等は肉体を持たず遥か上空の閉ざされた楽園に住むという。
稀に人間の姿を真似て地上で奇跡を起こす変わり者もいるようだが。
「天使様、聖剣になるのは僕ではダメですか?」
「残念だけど君にはその素質がないようだ。崇高な魂のみが聖剣の依代として選ばれるからね。君の弟は素晴らしい魂の持ち主ようだ」
「自慢の弟なんです・・・ずっと一緒に居たい」
「君の魂も穢れなき美しさを持っているのだね。ではこうしよう。儀式の際には私が近くで見守り、もしもの時は弟を守ると約束しよう」
「本当ですか!」
「でもその代償に、君の死後は魂を頂きたいんだ」
「え・・・」
「と言っても、老衰後の話だけどね」
「天寿を全うした時ですか?・・・それなら」
賢いとはいえまだ年端のいかないローエンは、天使を信用してしまう。そして弟のシャーナと村へと戻り、聖剣の依代として両親へと捧げてしまう。
だがそれが悲劇の引き金となってしまった。結局、聖剣降臨の儀式中に魔族が乱入し街は壊滅状態となり依代であるシャーナも消えてしまった。戦闘に巻き込まれたローエンは大怪我を負い、弟を探して瓦礫の街を彷徨った。やがて歩く事もままならなくなり、教会の裏で倒れ込む。
「シャーナ・・・」
ふと、誰かが触れたような感触がしてうっすらと目を開けると祭司が寄り添っていた。
「・・祭司様?」
「いや、私だよ・・・ユーライアだ」
「天使様・・・弟は?」
「すまない、探す事は不可能だ」
「・・・聖剣・・」
「聖剣もない」
「・・・天使様・・お願いが・・僕の魂をあげたらシャーナを・・探してくれますか」
「約束しよう」
「よかった・・・・」
安心したのかそのまま目を閉じたローエンは短い生涯を閉じる。幼くも賢く弟想いで純粋な魂を持つ子供。
ユーライアは憑依していた祭司の身体から抜け出ると、ローエンの身体へと移った。そして再び澄んだ青い瞳を開き立ち上がる。
「今日より私は、ユーライア・ローエンとなり崇高な魂を持つ君との約束のために生きよう」
そのまま瓦礫の街を後にすると、時が来るまで身を潜めるのだった。その後、新しく建国されたクラリシス王国の騎士となり同志となった風の守護天使エレスタエルと今に至るのだった。
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