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44 Lv1でも魔王に挑んでいいですか?
昨夜は散々、魔王アディに攻め立てられて足腰立たずにいたセナは昼前にやっと目が覚めた。やけに太陽が眩しいなと思い壁を見ると、壁がなかった。正確には壁は壊されていた。
「なっ、なんで壁がないんだ!?」
「起きたか、セナ」
少し離れた所にアディが座っていた。アディの顔を見て昨夜の事を思い出し恥ずかしくなったセナは、布団から半分顔を出して挨拶する。
「ぁ、お、・・・おはよ」
「あぁ、おはよう」
「あのさ、なんで壁ないわけ?」
「馬鹿共が朝一から俺の部屋に乗り込んで来たから、返り討ちで壁ごと吹き飛ばしてしまった」
「ええっ!?生きてるよね、皆生きてるよね!?」
「心配するな、ピンピンしている」
「なんでまた・・・そんな無謀な事を」
「お前が俺のモノになったのが不服らしい。勝ったらやると言ったらこうなった」
「俺は賭け事の景品じゃないんだけど」
どうやらセナを賭けてこのような事になったらしいが、まだセナは誰のものでもないのだ。
「はぁ・・・まったく朝から」
「ピヨッ」
「お?ぴよ太も、おはよう」
「ピヨッ!ピヨッ!」
セナの精霊ぴよ太は、シーツの上で元気に飛び跳ねている。セナはなんとか起き上がり魔王の間まで連れて行って貰った。姫抱きで。
「セナ!」
「セナ」
「セナさま〜」
魔王の間には、リドレイとジゼにロビそして各魔族代表が揃っていた。この中に人間のセナだけが浮いている。
「あっ!魔王ずりーぞ、セナを膝に抱っことか」
「敗者の負け犬の遠吠えか、リドレイ」
「なんだと、おいコラ!また再戦だ」
「魔王陛下、次は腕力ではなく知力で勝負といきましょう」
「僕は〜くじ引きの運試しがいいかなぁ」
「お前ら人の事景品扱いするなよ」
「だってよ、セナ。お前の事好きなの魔王だけじゃないんだぜ?」
「すっ、好きって・・・そんな・・・俺は別に・・・」
「え〜、セナさまは僕の事好きじゃないのぉ?」
「うっ・・・好きだよ、うん。ロビは可愛いし」
「わーい♡」
ロビの可愛い顔で哀しそうに言われると良心が痛む。例え演技だとしても。
「セナ、私の事は師として敬愛していますよね?」
「え、あ~まぁ、うん。尊敬はしてる」
「そうでしょうとも、そうでしょうとも」
これまたジゼは遠回しに無難な言葉を選んで来たが、結局は好意を持っていると言わせたいだけである。
「じゃあ、俺様の事は愛してるよな!」
「それはない」
「即答すんなっ!!!」
「だってリドレイを好きになる要素あんまり心当たりないもんな」
「!!!・・・ドラゴンの俺は愛してるよな」
「えっ・・・わっ!?」
リドレイがどんどん鱗を生やしながらあっという間にドラゴンへと変化していた。竜神族はこうやって硬化しながらドラゴンに変化するようだ。
ドラゴンリドレイは、大きな鼻先をセナの前に突き出した。キュウキュウ鳴いている。セナは仕方ないなとばかりに、鼻先を撫でてやる。
「はいはい、ドラゴンのリドレイはカッコイイよ」
「キュウ」
「獣の姿でセナに媚びようとは卑怯だぞ、リドレイ」
セナの言葉に満足したリドレイは、元の人型へと戻るとニヤニヤしながらアディを見た。
結果的にセナは、付き合うとかそういう事は置いといて皆の事は好きである。だが選ぶ事は出来なかった。困っていると、伝達係の魔族が来客者がある事を知らせに来た。普通に考えれば魔族の国に来客はあり得ないのだ。
そして通された来客者は、もっとあり得なかった。
「セナ君、来たよ」
「え、あっ、変態天使!!!」
「変態とは心外な。君の最愛の兄ユーライア=ローエルじゃないか。久しぶりだね、元気にしていたかな愛しの我が弟は」
「帰れ、変態天使」
「帰れとは無粋だな。外交官に向かって、その態度はこれからの良質な関係にヒビが入るんじゃないかな?魔王殿」
「どうせ外交を利用して、セナにちょっかいを出しに来たのだろう。魂胆が見え見えだ」
「ふふふ、ではセナについてもじっくり腰を据えて話そうか」
「よかろう」
「まったく、次から次へとややこしいんだから。俺、また旅に出ようかな」
「それもよかろう」
なんとなく言っただけだが、アディの意外な返答にびっくりした。てっきり行かせないとか言われると思っていたのだ。
「止めないのか?」
「なんだ?止めて欲しかったのか?」
「いや、そんな事はないけど・・・」
「お前の帰るとこは、ここだ。そうであろう?」
「ぁ、う・・・うん」
「例えお前がこの世界の果てでも別の世界でも、帰る所はここにあるのだ。それに勇者が魔王を討伐しなければハッピーエンドではないだろう?」
「!」
セナは、玉座の前に立つ皆を見る。皆、そうだろうと言う顔をしている。セナは勇者だ、例えLv1でも勇者である。どこに居てもセナの居場所を作ってくれたアディを、再び見つめると拳をちょんと魔王の胸にぶつけた。
「魔王の心臓にクリティカルヒットしてやったぞ。これでLvマックスだろ?どうだ」
「あぁ、これならLvマックスの勇者を倒すに相応しいLvマックスの魔王として遠慮なく攻められるな」
「ええっ!?ちょっと待て!コラ、アディ!降ろせってば〜!」
姫抱きのまま連れ去られた勇者セナは、魔王や他の魔族と変態天使の取り合いに揉みくちゃにされながらも終始楽しそうに笑っているのだった。
「Lv1でもいいか!これからもこの世界で、魔王に挑んでいいよな」
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