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introduction-5

「⋯⋯それより莉宇は、何で危険を冒してまで初恋の人を追っ掛けてここに来たんだ? 痛い思いして、辛いだけじゃん」 様々な意味で強い胸の痛みに苛まれていた瑠輝は、そっと胸を押さえながら話題を変えた。 万全ではない体調の中で、それ以上この件に関して考えるのは不可能だと思ったからだ。 奥に進めば進む程、薔薇の香りが色濃くなり胸の痛みも強くなっていく。 はっきり言って、莉宇に手を引いて貰っていなかったら今にも倒れそうな状態だった。 「そりゃ、好きな人に逢いたい一心だろ。それ以外、他に何の理由がある? 瑠輝も恋をすれば分かるぜ」 痛みから脚元がおぼつく瑠輝。それでも、莉宇は気が付かず前を向いたまま声をかけてくる。 「分かりたくもないよ⋯⋯こんな痛い思いをしてまでの恋なんて。その先にある恋だって、だいたい絶対的な幸せが約束されているの?」 痛みから頭がぼうっとした状態で、瑠輝は莉宇へと疑問を投げかける。 「――分からない。でもさ、先に進んでみないと分からないこともあるだろう」 莉宇が掴んだ瑠輝の手に、より一層力を強く込めたところで、ようやく蔓薔薇でできた要塞の終わりが見えてくる。 目の前に何処ぞの華やかな迎賓館のような白亜の洋館が見えてきたからだ。そこに薔薇はなく、瑠輝はもう少しでこの胸の痛みから解放されるのだと密かに安堵した。 一体、どれくらい歩いたのだろうか。それすらも理解できない程、瑠輝は薔薇の香りに毒されていたのだ。 すると、先行く莉宇が洋館を目前にして突如足を止める。油断して前を見ていなかった瑠輝は、少し背の高い莉宇の背中へ顔面から衝突してしまう。 「ごめっ」 ぶつかった鼻を押さえながら、瑠輝は謝罪の言葉を述べる。 だが、莉宇はそれに関しては何も言わず、無言でこちらへと振り向いた。 いつになく酷く真剣な表情で、それだけ莉宇の想いの強さを窺い知る。 「――綺麗な花には棘があるって言うだろう? これくらいの棘、簡単に交わせなかったら、俺は龍臣(たつおみ)の隣りに立つ資格すらないと言われているような気がするんだ」 ――龍臣? あ、莉宇の初恋のアルファ様のことか。 全く、愛だの恋だのと。 果たしてその先に、ましてや痛みを伴った先に幸せなんてあるのだろうか。常日頃、そう思っていた瑠輝には、莉宇のその初恋がどうしても実るとは思えなかった。 併せて、薔薇の香りに限界を迎えていた自身の胸を押さえ、瑠輝は痛みの矛先をわざと莉宇へ向けた。 筋違いなのは分かっていたが、この時の瑠輝はもう冷静な判断ができていなかったのだと思う。 「莉宇って、ヤンキーのクセに案外ドMなんだな」 途端、目の前の莉宇は眉根を大きく寄せるのが分かった。 しまった、と思ったが時既に遅し。 莉宇の拳が苛立ちにより振り上げられるのと、瑠輝自身が強い痛みにより意識を手放してしまうのとは、ほぼ同じタイミングで訪れたのであった。

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