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この世には、男女の性以外にアルファ、ベータ、オメガと三つの第二次性に分けられていた。 大抵それは、第二次成長期が始まる十歳から十三歳頃に判明する。恐らく瑠輝自身も、その辺りに第二次性が判明したのだろう。 親に捨てられた、もしくはそれに近い理由で手放さざるを得なかった訳ありオメガたちは、大概その歳の頃にシェルターへと保護される。例に漏れず、瑠輝もそこで暮らし始めたのは十二歳の頃だった。 否、正確には“瑠輝”としてシェルターで暮らし始めた一番古い記憶が十二歳だったため、自身もオメガだと分かって親に捨てられたのではないか。そう独り推測していたのだ。 オメガは、全ての人類の中で一番その人口が少ないと言われているが、実の親からも虐げられてしまう可能性のある非常に生きずらい性でもある。 併せて、三つの性の中で唯一男女共に子を成すことができる特異体質の身体を持ち、三ヵ月に一度ヒートと呼ばれる発情期が一週間ほど訪れ、人々を誘惑してしまうフェロモンを発してしまうのだ。本人の意志とは、まるで関係なしに。 忽ち、そのフェロモンを嗅いだ者たちは――特にアルファは、ハチに刺され神経毒が全身に廻った者のように理性を失い、狂ったようにオメガを求めてしまう。 だからこそ、オメガのヒートによる性犯罪や事件は絶えず、近親での過ちを犯してしまうことも少なくない。実の親から虐げられるだけでなく、そう言った意味で意図的に国の監視員により家族と引き離され、未成年の瑠輝が暮らしている国家管理のオメガ保護施設(シェルター)に保護されてしまうこともあったりする。 尚、シェルターで暮らすオメガは、過去を思い出さないよう機械によってそれまでの一切の記憶を消されてしまう。そのせいで、自身がシェルターで暮らす憶測をそこに居る誰もが必ず一度はするのだが、誰独りとして自身がそこに居る本当の理由を知らないままなのだ。 また、出自を調べて犯罪に巻き込まれないようにと苗字さえも思い出すことを許されず、名前のみで生活を強いられている。 もちろん瑠輝も、シェルターに来る前の幼き日の記憶は一切覚えていないし、自身の苗字も知らない。 ただ“瑠輝”として、オメガとして日々を過ごしているだけ。 それでも、薔薇の香りを嗅ぐことで痛む胸が、過去の自身が何者であったのか。密かにそれが自身が何者かであることを知る、大きなヒントになっているような気がしてならなかった。

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