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「莉宇、離せってば。莉、羽っ」 元来た蔓薔薇の要塞を潜り、瑠輝たち二人はアルファの敷地からようやく外へと辿り着いた。 辺りはすっかり暗くなっており、瑠輝は門限が気になってしまう。 「まだ、七時前だ。ここまで来れば、治外法権も無効だろ」 莉宇はそう言って、渋々瑠輝から手を離す。 「悪かったな」 一言謝罪を述べると、莉宇は気まずそうに遠くを見た。気まずいのは、瑠輝の方だというのに。 結局、初恋のアルファである“龍臣”さんに逢いに行ったはずだが、瑠輝が倒れてしまったことでどうなってしまったのだろうか。莉宇に連れて行かれたとはいえ、体調を崩しお荷物になってしまったことで深く責任を感じてしまう。 確か、あの部屋にいたアルファの男は「“龍臣”がオメガを保護した」と話していた。もしかすると、莉宇は運良く“龍臣”さんと逢うことができ、助けを求めた時に逢えた可能性はある。 だというのに⋯⋯。 瑠輝は自己嫌悪の溜息をつく。 とにかく何もかもが嫌だった。 アルファが嫌いだというのに、結局そのアルファに助けられたことも嫌だった。 その上、初恋の相手に逢いに行ったはずが、莉宇に気を遣って「俺が大事にしますから」等と嘘を言わせてしまったことも酷く嫌だった。 何もできないクセに、ただ大口を叩く子どものようで、瑠輝は自身を情けなく思った。 結局、自分は最下位の更に下のオメガなのだという事実を突きつけられたようで、瑠輝は泣きたかった。 だが、泣きたいのは瑠輝よりも莉宇の方だと思ったから、潤む視界には気が付かないふりをして、唇を大きく噛み堪えた。 今、泣くのは自分じゃない。そう何度も自身に言い聞かせながら。 「それより瑠輝、身体はもう大丈夫なのか?」 心配そうな莉宇の一言で、不意に胸の痛みがなかったことに気が付く。 間違いなく、帰りも行きと同じ道を辿ったはずだ。その道には、綺麗な紅色だが刺さると痛い鋭い棘を持つ高飛車な薔薇が、たくさん咲いていた。瑠輝の記憶が全て正しければ、だが。 否、もしかすると混乱した状態であったから、そう思い込んでいただけで別ルートだったのかもしれない。 「うん⋯⋯大丈夫。大丈夫だけど――」 「ごめんな」 再び、莉宇から先に謝罪されてしまう。瑠輝は目を伏せ、力なく左右に首を振って答える。それ以上話したら涙が溢れ落ち、感情を抑えきれなくなりそうだったからだ。 「まさか、“キングローズ”様が直々に現れるとは思ってもみなかったから」 眉を寄せて話す莉宇の顔は、いつになく険しいものだった。その表情に、昂っていた瑠輝の感情も一気に醒めていく。 「⋯⋯キング、ローズ?」 聞いたことのない単語を、瑠輝は恐る恐る復唱する。

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