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「あぁ、瑠輝が王子様みたいだって言ってた人がいるだろ?」
莉宇の言葉に、瑠輝は「ああ」とつい今仕方出逢ったばかりの男のことを嫌々思い出す。
顔は甘く華やかだというのに、あの形の良い薄い唇から紡がれた言葉や態度は、全く甘くはなかった。
名前を褒められた以外は。
「あんなの顔だけ王子様だな。横柄な態度だったし。やっぱアルファなんて、いけ好かないヤツばっかなんだな」
頬を膨らませて瑠輝は言った。
全く、あの部屋での出来事を思い出すだけで気分が悪くなる。
「――今の日本のトップは誰だか知ってるか?」
不意に莉宇は真面目な話を振った。
「えっと⋯⋯確か⋯⋯」
確か、超エリートアルファだということは間違いないのだが、誰が国のトップになろうが最下位のオメガである瑠輝には関係ない。世の差別等変わらない。そう思っていたせいで、詳しくその名を覚えてはいなかったのだ。
「それくらい常識なんだから覚えとけよ」
笑いながら莉宇は瑠輝の頭を軽く小突く。
「――というか、そのいけ好かないアルファ様が“キングローズ”様だよ。将来、国家のトップが約束された」
「え?」
瑠輝は、思わず間抜けな声を出てしまう。
「公にはされていないけど、代々国のトップは超エリートアルファを育成するあの機関で“キングローズ”の称号を得た者が継ぐんだ。現在のキングローズは、あの王子様みたいな男で、俺たちと同い歳の“星宮 煌輝 ”だ」
「ほし、みや⋯⋯こーき?」
何処か既視感を覚えるその名前に、瑠輝は「あれ?」と首を傾げる。
「どこかで聞いたことがあるような⋯⋯」
瑠輝がそう言うと、莉宇は大きく一回だけ頷きこう言った。
「さすがに瑠輝でも聞いたことがあるみたいだな。それを聞いて安心した」
莉宇のその言葉に、瑠輝は思わずムッとする。かなりの偏見だが、ヤンキーのクセに意外と社会派かよ、と瑠輝は少しだけ憤った。
「星宮は、今の国のトップの苗字だ。さすがにテレビをあまり観ない瑠輝でもその名前くらいは、色んなところで話題に上がるから聞いたことあるだろ? 星宮煌輝は、その現トップの独り息子だよ」
「げ、政界のサラブレッドか」
嫌悪感丸出しで瑠輝は言った。
自身がシェルター暮らしのオメガと分かった瞬間、顔色を変えるような嫌な男。
そんなヤツがこれからの日本を背負って立つなんて、シェルター暮らしのオメガへの差別なんて到底なくならないだろうし、良くて現状維持というところだろう。そんなものだ、と瑠輝は感情を揺らすことなく思った。
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