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「ま、超エリートアルファ様には捨てられたオメガの気持ちなんて、一生分からないだろうなぁ」
生温い夜風に辺りながら、瑠輝は莉宇より一歩前に出ると、大きく伸びをしながら独り言のようにそっと呟いた。
「――それが俺、実は倒れた瑠輝が心配で龍臣に助けを求めようと思って。でも、アイツが何処にいるか全然分かんなくて。罰を受ける覚悟で、あの白亜の洋館に乗り込んだんだ」
塞き止められたものを一気に吐き出すように、瑠輝が倒れた時のことを莉宇は口にする。
「白亜、あぁ⋯⋯蔓薔薇を抜けた先にあった建物だよな?」
意識が途絶える前に見た、迎賓館のような洋館を思い出しながら莉宇へと確認の相槌を打つ。
「そこにはやっぱり龍臣はいなくて。でも、代わりに“キングローズ”様がいたから、龍臣の名前を言って呼び出してもらって。それで、アルファの施設だし瑠輝はオメガだし⋯⋯龍臣に相談したら自分の一存じゃ決められないって“キングローズ”様に話しをしてくれて。あそこなら他のアルファたちにも気付かれず安全だろう、とあの部屋を提供してくれたんだ」
当時を思い返して話す莉宇は、本当に大変な思いをしたのであろう。話している時の必死な表情が、それを酷く物語っていた。
同時に、シェルター暮らしのオメガに難色を見せていた男の、別の顔を知る。
――アイツ、アルファのクセに意外とイイ奴⋯⋯だったんだな。
「そっか。一応、将来の超エリートはオメガにも配慮もできるんだな。悔しいけど、今回は完全に助けられちゃったなぁ。エリートアルファ様にも、莉宇にも」
その時だった。ストンと何かが心に落ちる音がして、瑠輝は悔しかった先ほどの思いを少し受け入れられた気がした。
「仕方ないだろ。元はと言えば、瑠輝がオメガだっていうのに、俺が考えなしに無理やりアルファのいるところへ誘ったからさ」
何処か含みのある言い方をした莉宇は、大きな一歩を踏み出すと、ようやく先を行く瑠輝へと追い付いた。
「なぁ、瑠輝」
ふざけて莉宇は、瑠輝の右肩に手を廻す。
「ちょ、ちょっと何?」
本日二度目の密着に、瑠輝は動揺する。
「本当に、今日は悪かったな」
真面目な口調で返す莉宇に、違和感を覚えた。
「門限まで、まだ間に合いそうだからお詫びにラーメンおごるわ」
だが、すぐにお調子者然としての振る舞いを見せた莉宇に、瑠輝はすっかりその違和感を忘れてしまったのだ。
この時の瑠輝は、まだ何も知らなかった。
本来、立ち入り禁止である施設に何の咎もなく、無傷で外へ解放して貰えるはず等ないことを。
また、その裏で唯一の親友が独り苦しんでいたことも。
再び、その違和感へ気が付いた時には、瑠輝自身も想像だにしなかった未来が、既にそこには待ち受けていたのであった。
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