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明らかな異変に気が付いたのは、蔓薔薇の要塞から無事に戻った日から数えて二度目の金曜日。良く晴れた午後のことだった。 昼食後の気怠い授業を二限分なんとかやり過ごし、ホームルームも無事終えた瑠輝は「今日こそは」と心に強く決意していた。 「莉宇!」 週番の帰りの号令が言い終わるが終わらないかのところで、瑠輝は同じ教室内の、一番廊下側の後ろから数えて二列目の席に座る莉宇を目掛けて突進する。 今日も、莉宇は一度も瑠輝を振り返ることなくそそくさと教室を出て行く。 「ちょっと莉宇、待ってよ」 背後から大声で呼びかけるも、反応はない。 それでも、今日こそは怯まず莉宇を追ってやる。 覚悟していた瑠輝は、黒の潰れた学生鞄を脇に抱え戦闘態勢へと入った。 しかし、ベータとオメガ。僅かの体格の差でも、次第にお互いの走る速度に距離が出てきてしまう。それでも、瑠輝は今日こそは莉宇と話したくて上がる息に気が付きながらも、必死でその背中を追った。 なんとか追い付かなきゃ。 追って、追って、たとえ距離が開いたとしても今、莉宇を追わなければもっと心の距離が出きてしまうのではないか。 呼吸が乱れ苦しい中、瑠輝はそう思った。 ここ最近、莉宇の様子は何処か変だった。 放課後まではいつもと変わらない態度なのだが、何故か終鈴が鳴ると脇目も降らず一目散に教室から出て行ってしまう。バイバイの挨拶さえ交わすことなく、顔さえ合わせることはなく。瑠輝はそれが酷く悲しくて、酷く寂しかった。 莉宇と親友になってから、大抵の放課後を一緒に過ごしていた瑠輝は得も言えぬ焦燥感に駆られていたのだ。 ある時は、ファーストフード店で遅くまで課題を一緒に片付けたり、別のある時は、くだらない話をしながら少し遠回りして帰宅をしたり。またある時は、二人で日払いの倉庫整理のバイトやイベント会場設営のバイトで小遣いを稼ぐこともあった。 それほどいつも二人は一緒で、瑠輝はそんな束の間の莉宇との時間を酷く幸せだと感じていた。莉宇もそれを拒否をしないのだから瑠輝と同じ気持ちなのだろうと勝手に思っていたし、そうあるために何でもしたいとも思っていた。 その気持ちは、はっきり言って“恋”ではない。恋や愛に否定的な瑠輝は、違うとその感情に区別をしていたが、何とも言葉にし難い温かく優しい感情は、日々シェルター暮らしというだけで差別される瑠輝の心を間違いなく今日までずっと支え続けていた。 だからこそ、ここ最近の一転した莉宇の態度に気が付き認めるまで、瑠輝はだいぶ時間を要してしまっていたのだ。 ――まさか、一緒に居すぎてとうとう嫌いになられてしまったのか。 マイナスの考えが瑠輝の頭を一瞬過ぎる。

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