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でも、なぜ? なぜ、放課後になると莉宇は自分を避けるのだろうか。 何度もこの二週間、瑠輝は自身へと問いかけたが、その答えは一向に見つからないままだ。 二週間前、アルファの施設で気絶してしまい迷惑をかけてしまったことだろうか。それとも、本来であれば口を聞くことも許されない“キングローズ”に啖呵切ってしまったことだろうか。まさか、その帰りにラーメンを奢って貰った時に全部乗せのトッピングを選んでしまったことだろうか。 否、莉宇はそんな程度のことで瑠輝を避けるなんてしないはずだ。 誰よりもそんなことは、親友の瑠輝が良く知っている。 それでも尚、何度名前を呼んでも振り向かない頑なその後ろ姿に、瑠輝はどうしようもないほどの酷い悲しみと葛藤を覚えてしまう。 何が何でも今日は、莉宇を追うと決めていた。 だが、やはりここまで無視され続けるとさすがにもう、莉宇を追ってはいけないのではないか。そう悟ってしまう。 いつの間にか追っていたその背中がだいぶ先に米粒ほどに見え、これ以上もう追い付くことは不可能だと察知してしまう。不意に瑠輝は脚を止め、その場で自らの顔を隠すように俯き、自嘲した。 ――ここまで明らかに避けられてしまうってことは、学校での浅い付き合いだったら良いけど、今までのようなそれ以上の付き合いはしたくないって⋯⋯そういうこと、だよな。 幸い瑠輝には、まだオメガ特有の発情期は訪れていなかった。 しかし、普通は面倒な特異体質を持つ人間と好き好んで一緒にいる者なんて、この世にはいないのだと悟る。 同じ高校へ通う普通の家庭に生まれたオメガでさえも、万が一の発情期が起きてしまった時に備え、日頃からベータと距離を置き自衛しているほどだ。 初めてできた友達である莉宇の優しさに甘えて、瑠輝はオメガである自身を悲観しつつも、それでも何処か自分だけは他のオメガとは違うのだと。そう勝手に思い込んでいた節があったのかもしれない。 バカだなぁ。 莉宇というベータの親友ができたからと言って、自身がオメガという――ましてや、シェルター暮らしのオメガである事実は変わらないというのに。 もう諦めよう。 これ以上、多くを望む前に気が付いて良かったのだ。 キュッと苦しさが強く増す自身の心には気が付かないふりをして、瑠輝は無理やりそう言い聞かせていた。 はたりはたりと何かが自身の脚元へと落ち、影となっていく。瑠輝は、無意識の内に自身の頬を熱いものが濡らしていたことを知る。 「う、ウソ。何、これ」 次から次へと頬を伝うそれを、瑠輝は必死に手の甲で拭っていく。 まだ、黄昏前の明るい国道沿い。道行く人々からの好奇な視線を受け、瑠輝はいつの間にか莉宇を追ってだいぶ遠くまで来ていたことに気が付く。 同時に、ツンとした胸の痛みと何処からともなく漂ってきた鼻腔をくすぐる甘く濃厚な香りに既視感を覚えていた。 ――あれ、この香り何処かで⋯⋯。 俯いていた顔をゆっくり上げると、そこには二週間前に訪れた蔓薔薇の要塞が拡がっていた。

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