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――ここは、この前の超エリートアルファの育成機関、“秘密の薔薇園”⋯⋯。 先ほどまでは一応視界に認めていたはずの莉宇の姿も、すっかり今では見失っている。 しばらくこの先は、蔓薔薇の要塞がずっと続く。この辺りで莉宇を見失ったとするならば、間違いなく二週間前のように彼はここへの侵入を試みたのではないか、と瑠輝は思った。 ――ああ、そうか。 先日、瑠輝が気絶したせいで初恋のアルファである“龍臣”さんとゆっくり逢うことができなかったから⋯⋯か。 なるほど、と納得しかけてすぐさまそれを訝しむ。 だからと言って、わざわざ危険を犯してまで毎日初恋のアルファへ逢いにいくだろうか。 否、そもそも確実に莉宇が蔓薔薇の要塞の中へ侵入したかどうかはこの目で確認をしていないし、二週間もの間、毎日必ずここへ来ていたのかも定かではない。 今仕方、莉宇に避けられ涙していたはずの瑠輝は、かなり自分がご都合主義なのだと思った。 それでも、莉宇が瑠輝のことをシェルター暮らしのアルファだからとか、そんな単純な理由で避けていたとは、どうしても考えられないでいたのだ。 何一つそうだ、と確信はないし、往生際が悪いと言われれば否定もできない。 だが、どうしても何か重大な理由があって莉宇は毎日ここへ通っているのだと瑠輝の直感が強く告げているのだ。 しかも瑠輝を避け、着いてきて欲しくないほどの大きな理由から、きっと。 一体、その理由は何だろうか。 嫌な予感はするが、確実にこのまま知ることを止め、莉宇に対して嫌な感情を残したままにするのも嫌だった。 どうせならば、真実を知った後に莉宇との友情を諦めたかった。 初めてできた大切な、たいせつな親友だから。 「先に進んでみないと分からないこともあると、あの日莉宇は確かに瑠輝へとそう言った。 間違いなく瑠輝にとって、今がその時だと強く感じ、覚悟を決める。 瑠輝は、薔薇の香りで痛む胸をぐっと押さえると、二週間前に莉宇から教えてもらった国道から一本奥へ入った、人目につかない蔓薔薇の要塞の抜け道の前へ立つ。 もう後戻りはできない。 強い思いで瑠輝は、その中へと潜り込んだのであった。 二週間ぶりの蔓薔薇の要塞は、益々その香りが強く濃くなっていた。少しでも気を抜くと、瑠輝は強い胸の痛みから今にも倒れてしまいそうだ。 一般的に、薔薇の見頃は五月から六月にかけてと言われている。五月の中旬である今の時期はちょうど見頃であろうから、その分、一輪ごとの香りも強く漂うのだろうと思った。 前回のことで、薔薇の香りの強さで体調が左右されてしまうことを知った瑠輝は、手で鼻や口を覆いながら慎重に、かつ足速に進んでいく。 「どうか、莉宇がこの先に居ますように」と、強く強く願いながら。

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