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先日と同様、チクリと刺す薔薇の棘が瑠輝の剥き出しの頬や手を刺し、強い胸の痛みで朦朧とする自分自身を奮い立たせていた。 以前莉宇は、この棘の痛みを交わすことができないと初恋の相手の隣りに立つ資格がないように思う、と話していた。不思議と今日は、瑠輝が莉宇の親友として隣りに立つ資格があるかどうか。それを薔薇の棘から問われているような気がしてならない。 莉宇のことを想い、増強する胸の痛みを押さえ、死ぬ思いで蔓薔薇の要塞を通過すると、目の前にはこの前と同じ、白亜の洋館が見えて来た。 この前は、ここで意識を失ってしまったから気を付けないと。 自身へそう強く言い聞かせ、一歩を踏み出したその脚元にはテラコッタ調のタイルが遠く洋館の方まで続いている。 不意に視線を上げた瑠輝の視界には、圧倒される風景がそこには拡がっていた。 前回、訪れた時には気が付かなかったことだが、蔓薔薇の中のこの敷地はとても広大で、まるで中世の面影が残るオーストリア、ザルツブルクの街並みのようだった。 莉宇が瑠輝を連れてここから立ち去った時、蔓薔薇の外で「治外法権」という言葉を口にしていたが、この風景を見てしまうと確かにそう言いたくなってしまうのも分からなくはない。それほど、違う世界がそこには拡がっていたのである。 さすがにこれだけ広いと、莉宇がこの敷地の何処かにいたとしても探し出せるかどうか⋯⋯。 周囲を見渡し戸惑っていると、瑠輝の目の前を白亜の洋館に似つかわしくない、黒の学ランを着た者が吸い寄せられるようにしてそこへ入っていくのを目撃する。 「あの学ラン、まさか⋯⋯」 漆黒の学ランと一際目立つ鮮やかな金色の髪。あのコントラストは間違いなく莉宇だ、と瑠輝は思った。自身の直感はやはり間違っていなかったのだと知る。 瑠輝は周囲に誰もいないことを確認すると、急いで白亜の洋館の裏へ回り込むように小走りをし、様子を窺うために身を潜めた。 直後、先日キングローズと呼ばれた男が着ていたデザインと同じ上下白のブレーザーとスラックスを身に纏った体格の良い長身の男たち四、五人に囲まれ、入室したばかりの莉宇が出て来る。 明らかにそれは異様な光景で、初恋の相手に逢いに来た光景だとは、到底思えなかった。 嫌な予感がする。 そう思った瑠輝は、咄嗟に息も潜め洋館の死角へ入りながら、そこから離れて行く莉宇の姿を目で追った。 どうしよう。 このことを、莉宇の初恋の人である“龍臣”さんは知っているのだろうか。 それとも、この妙な胸騒ぎは勘違いで、本当はこれからその初恋の人のところへ行こうとしているのではないか。そう思い直してみたが、どうも腑に落ちない。 続けて自身の思う通りとなっていた瑠輝は、自身の勘を信じ、莉宇を追うことにする。

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