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発情期が訪れたらどうなっても知らないぞ。そう怖い顔して告げた煌輝の過去の言葉が、不意に脳裏へよみがえる。 煌輝と龍臣以外、ここへは誰も存在しないのではないか。そう思っていたはずだったが、瑠輝のフェロモンに導かれるように建物の外へアルファの男たちがぽつぽつと姿を現し始める。 「まずいな」 深刻な表情で龍臣は言う。煌輝はそれには答えず、瑠輝と適度な距離を保ったまま龍臣へと指示を出す。 「――今から速やかに瑠輝を俺の部屋へ避難させる。龍臣は、他の生徒たちに緊急事態を発令させ、建物から絶対に出ないよう放送を流せ。それから、お前の幼馴染みのベータの男に連絡を取れ」 「木崎莉宇に、か?」 「ああ。発情期を迎えた瑠輝に、俺たちアルファが近づくのはあまりにも危険だ。以前、瑠輝と一緒にここへ来ていた彼だったら任せられるだろう」 一刻の猶予も許さないとばかりに煌輝は険しい表情で、宣告する。 「まさか、直接俺がオメガのシェルターに連絡する訳にもいかないだろう。それこそ一歩間違えたら、オメガの差別問題がより変な方向で大きく取り沙汰され、暮らしにくくなってしまう」 煌輝の言葉に、瑠輝は青ざめた。 分かっていると、あの日偉そうに煌輝へ返してしまったが、何一つ自分は分かっていなかったのだ。 自分の安易な行動が、最悪の場合、自分と同じオメガを苦しませてしまうことを。それだけではない。目の前にいる、煌輝の立場をも危うくしていることを。 「煌輝、こんな時までオメガのことを気にしている場合か? お前は超エリートアルファの中のエリート、“キングローズ”だぞ。アルファだったら、誰もが一度は羨むその肩書きをオメガのフェロモンに充てられ、剥奪されたらどうするんだよ? こんな価値ないオメガ、その辺に放り出しておけよ」 発情期のフェロモンで頭がぼうっとしてきた瑠輝の頭に、容赦ない龍臣のその言葉が突き刺さる。 いつもであれば、そこは反撃する場面ではあったが、全ては瑠輝自身に非があるのだと気がついてしまったがため、反論の余地はない。 それどころかぼんやりと、こうして自分は親に厄介者として捨てられてしまったのかもしれない、とさえ思ってしまう。 オメガに生まれてしまったせいで、価値のない自分。 身体が熱くて、あつくて、とっても熱くてどうにかなりそうだった。何もしていないのだが下腹部に熱が灯り、濡れていく。 アルファ等、絶対に欲しくないとそう決意していたのに、熱の昂りと共に何かを酷く切望する自身の身体。 こわい。 とても、怖いと思った。 自分が自分ではなくなり、他の何ものかにこの身体を、この意識を乗っ取られていくようで、恐怖しかなかった。 これも全て、オメガという性が自分をそうさせているのだと理解していたはずだが、瑠輝はこの変化が酷く怖かった。 誰か独りで良い。 どうかこの熱が収まるまで、傍にいて欲しい。発情期で理性が失いかけた意識の狭間で、煌輝の顔を思い浮かべ瑠輝はそう切に願ったのである。

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