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「違わない。⋯⋯煌輝の部屋へ行く。これは、僕の意志だ。僕が、決めたんだ」
まるで、告白をしているようだと話しながら瑠輝は他人事のように思った。
好きだの愛してるだの、一切口にしてはいない。それでも、全身を廻る瑠輝の血液はうるさいほど沸騰し、否が応でもそう意識せざるを得なくなってしまう。
――全身が、滾るように熱い。
全ては、甘く囁き、優しく微笑みかける煌輝のせいだ。煌輝が瑠輝の心を乱すことをするからだと、自身へ言い訳する。
これから煌輝の部屋へ行ったら、一体自分の身体はこれ以上、更にどうなってしまうのだろうか。
少し体温が上がった自身の頬へそっと触れ、煌輝とのその先へこっそりと思いを馳せる。
「瑠輝」
唐突に発せられた冷淡な声の煌輝が、手のひらを返したかのように瑠輝をその腕から解放し、紅くしていた頬の熱を急降下させた。
それだけではない。煌輝は眉を顰め、瑠輝から顔を背けてしまう。
――あれ、何? どういうこと⋯⋯?
一変した態度に、瑠輝は大いに困惑する。
どういうことだ、と瑠輝が言いかけたところで遠くに見えていたはずの龍臣が、全力でこちらに駆け寄るのが見えた。
肩で息を切らして、再び二人の前に現れた龍臣は、煌輝同様、険しい表情をしていた。
――二人共、どうしたんだ?
瑠輝がそう訝ると、訊ねるより先に龍臣がその答えを口にした。
「まずい。酷く甘ったるい薔薇の香りが、辺りに酷く充満している。もしかしなくとも、そこのオメガの、発情フェロモンじゃないのか?」
鼻を袖で覆いながら、顔を歪めた龍臣は言う。
「――僕、の⋯⋯発情、フェロモン?」
目を見開きながら瑠輝は言った。
ウソだ。
僕の発情フェロモン、だって?
信じられなかった。
まさか、こんなところで⋯⋯ましてやアルファしかいない、危険なこの場所で、本当に瑠輝は初めての発情期を迎えてしまったというのだろうか。
瑠輝の目の前は真っ暗となる。
――この全身が滾るような熱さは、まさか。
もう間もなく、瑠輝に初めての発情期が訪れるだろう。そう告げた、昨夜の水城の言葉が不意に頭を過ぎる。
咄嗟に学ランの上から首元を触り、服の上からでも分かるその硬い感触に、かりそめの安堵を覚えた。
大丈夫、とりあえず項はネックプロテクターで護られている。
アルファに、項を噛まれる事故は――最悪、起きないはず⋯⋯だ。
極度の緊張に苛まれた瑠輝は、どうにかしてこの場から逃げなければと本能が警鐘を鳴らす。しかし、自分が思っていた以上に気が動転しており、その場で立ち往生してしまう。
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