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瑠輝はその光景に恐怖を覚えた。
しかしベータの男という水城の言葉に、自分の勘とは違い、結果的にあの日、アルファの二人はベータの莉宇を呼んでいたのだと悟る。
「僕をここまで運んで来てくれた男、ですか⋯⋯?」
「ああ。自分はベータだと、そう名乗っていた。可哀想に、私のように年中オメガと接していないせいか、瑠輝の発情フェロモンにだいぶ充てられていたようだったが。印象に残る、綺麗な顔した男だったな」
確かに莉宇はヤンキーだが、金色に染めた目立つ髪に引けを取らない綺麗な顔立ちをしている。水城の発言から、ベータの男は莉宇で間違いないだろうと確信する。そもそも、瑠輝には友達が莉宇しかいないため、最初からその一択しかないのだが。
ベータはアルファのように、オメガの発情フェロモンに誘引され、ラットと呼ばれる発情状態に陥ることはない。
だがそれでもやはり、オメガのフェロモンに充てられてしまうことは少なからずともある。そのせいで、オメガを襲ってしまう等の危険行為はさすがに起こり得ない。
発情期は、瑠輝の意志とは裏腹に起こるものだったが、親友の莉宇に嫌な役回りをさせてしまったことを瑠輝は酷く悔いてしまう。
情けないことにまた、莉宇に迷惑を掛けてしまった。
今日、莉宇に会ったら一番に謝ろう。
だが、瑠輝の軽率な行動からの発情期にいよいよ呆れられていないだろうか。
迷惑ばかり掛け過ぎて、そろそろ莉宇へ合わせる顔がない。
心に暗い陰を落とした瑠輝に、水城は拍子抜けしてしまうほどあっさり手を引き、今まで通りの生活指導教官としての顔を覗かせる。
「とりあえず、その物騒なものは今すぐ鞄にしまって学校へ行くんだ。遅刻するぞ」
水城の言葉に、瑠輝は慌ててフロアを後にする。
見慣れた風景の通学路を息せき切りながら、瑠輝はまた一つ、オメガとしての自分を憎む因子ができてしまったと嘆いた。
同時に、もう絶対に煌輝には逢いに行けない。そう思った。
――あんなに大口叩いてたのに、結局、皆に迷惑かけてしまって⋯⋯。
僕、何のために外の学校を選んだんだろう。
自然と瑠輝の脚は止まり、登校自体を躊躇い始める。
「おい、瑠輝。お前も諦めたのかよ?」
気持ちが沈みかけた瑠輝に、驚くほどいつもと変わらない明るい声が掛けられた。
「⋯⋯莉宇?」
「俺はヤンキーだからな、遅刻なんて気にしないけど、お前は優秀な学生だろ? こんなとこで、ゆっくり歩いてて良いのかよ? 間に合わねーぞ」
何も気にした様子もなく話し掛けてくる莉宇に、瑠輝は瞠目する。
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