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「シェルター番号三〇五の生徒、繰り返し呼び出しを行う。シェルター番号さ……」
正に今、購買で買ってきたばかりのBLTサンドへかぶりつこうとした瑠輝は、校内放送の呼び出しが自分であることにワンテンポ遅れて気がつき、手を止めた。
梅雨の晴れ間であろうか。久しぶりに今日は雲ひとつない晴天であった。
「名前で呼ばれることに馴れたせいか、番号で呼ばれる生活に違和感しかないなぁ」
外の世界を知る前は、それが当たり前だと思っていたのに。
誰もいない狭い中庭のベンチで独り言を呟きながら、瑠輝は手をつける前のサンドイッチを不機嫌そうに袋の中へ戻し、席を立った。
「っていうか、呼び出し多くないか?」
誰に言うでもなく拗ねながら、中庭と校舎へ繋がる出入口に設置された機械へカードキーを翳す。
ピピッと解錠された電子音がして、瑠輝はドアノブを手前へ引く。
「瑠輝、また呼び出しか」
先ほどの瑠輝の自問自答が聞こえていたかの如く、ドアの向こう側から返答があった。水城だった。
「言っておきますけど、約束通り揉め事は起こしてないですから」
「分かっている」
すれ違い様、シルバーフレームの奥の瞳がチラリと瑠輝を一瞥する。
「っていうか、水城先生こそアルファのクセに、よく他の先生や生徒たちにバレずに働いていられますね」
本来であれば恩人であるはずの水城に、瑠輝が悪態をつけるのはもう自身の運命を全てを吹っ切ったせいだろうか。
「こちらも、オメガのフェロモンを感知しない薬を内服している」
「エリート様でも、陰ながら涙ぐましい努力をされているんですね」
わざとらしく涙の出ていない目元を押さえるフリをして瑠輝は答えると、不意に周囲からの視線を感じてその方向へ顔を向けた。
ヒソヒソと声を潜めて喋っていた連中は、慌てて瑠輝から罰が悪そうに視線を外す。
十八の誕生日を迎えてから早一ヵ月。
季節はもうすぐ、本格的な夏へ移り変わろうとしていた。
「瑠輝ほどじゃあない」
水城はそう言ってスーツのジャケットの内ポケットから、スマートにカードキーを取り出す。
「しかも私は瑠輝のことが好きなのだから、こんなことは苦でも何でもない」
一度、瑠輝への想いを告白した水城は今ではもう、その想いを隠すことなく気軽に口にするようになっていた。
最初の告白とは違い、今では冗談のようにだ。
「水城先生って、そんなに軽率な人だと思っていませんでした」
心のこもっていない口調で返すと、また周囲がざわめくのが分かった。
面倒くさいな。
瑠輝がそう思うより先に、水城が笑い飛ばす。
「言わせておけばいい。私たちの間には本当に何もないし、出戻りだからといっても、元々、瑠輝はシェルター暮らしなのだから堂々としていればいい」
困ったように軽く眉根を寄せた水城はそう言うと、瑠輝がつい先ほど潜ったドアを解錠し、外へと出て行った。
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