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全員が性差社会の犠牲者なのだと、この時瑠輝は朧気に思った。 それぞれがそれぞれの立場のせいで、狂ってしまったことなのだ。 水城が国へ密告したことは許しがたいことだった。だが、幼き頃の二人の関係が言った通りであったら遅かれ早かれ、他の人間にも知られることとなり、同じ結果を辿っていただろう。 くすりと俺は一つ小さく笑って、水城へ言ってやった。 「運命の番って、血筋までは配慮してくれないシステムだったんですね」 「瑠輝……」 「煌輝と運命の番だったら、記憶を消してもまた僕は同じことを……繰り返すんでしょうか」 じっと水城の瞳を見据えながら瑠輝は尋ねる。 黙ってこちらを見つめる水城が、俺にはその答えなのだと感じた。 「だったら尚更、記憶を一刻も早く消して水城先生の番にしてください」 記憶を消されるのが水城の方ではないかと思わせるほど、目の前の男の方が憔悴しきっているように見えた。 ああ、やはり水城もこの階級社会の被害者なんだなと心の中で同情する。 「永遠に“苦しい”を繰り返すのはもう、僕も辛いです。この負の連鎖から全員、解放……されませんか? だから、」 記憶を消して、煌輝と引き合う前に瑠輝の項を噛んで番にして欲しい。 番になってしまえばもう、瑠輝も番相手以外のフェロモンは感知できないし、煌輝も。 煌輝は……? 全ての記憶が残っている煌輝は? また幼い頃に生き別れたように、瑠輝の面影をずっと引きずって生きるのだろうか。 永遠に瑠輝だけを想い続けて。 独りで。 独りで喪失感に苛まれ、苦しむのだろうか。 瑠輝だけが大事な想い出を全て忘れて、新しい人生を歩もうとしたなんてそんなこと。 あまりにも悲し過ぎるし、辛い現実だ。 ――最低だ、僕。自分が記憶を消されることで、関係している人物全員が幸せになるのだと思っていたけれど。 それこそ独りよがりで、誰も幸せになどならないのではないかと思い直す。 重大な事実に気がつくや否や、瑠輝は両手で顔を覆いながら自嘲した。 あははは、と続けて乾いた笑いを上げた瑠輝に水城は訝る。 「……やっぱり、ダメ。だめです」 両手で顔を覆ったまま瑠輝は言う。 自分だけ楽になろうとしていた。 煌輝も水城も、今までたった独りでこの境遇を乗り越えてきたというのに。 「誰もそれじゃ、幸せになんか……ならない。好きな相手すら独り、救えない」 微かに瑠輝は肩を震わせる。 もし、神様が存在するとしたらかなり意地悪だ。 よりによって対として産まれてきた者同士を、運命の番にしてしまうだなんて。 運命の悪戯にしては凶悪過ぎる。 「すみません。都合のいい話ですが……やっぱり記憶、消さないで。番には、しないで下さい」 消え入るような声で縋るように、先ほどとは打って変わって瑠輝は水城へ懇願したのだった。

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