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《サンプル版》第6話 欧介

なんであの日に限って、二階に上がらなかったんだろう。 そうしていれば、律に見られることもなかったのに。 車から降りると、まんまるな月が出ていた。 一番近いバーでも、街をひとつ越えたところにある。 その日久しぶりに会った灰谷 司(はいたにつかさ)は、バーで俺を見つけて声を掛けてきた。 つき合っていた、いや、身体の関係だった。 相性も良かったし、性格も合った。 別れたのはずいぶん前。 仕事の都合で地元に戻り、なじみのバーに顔を出したら、俺がいたらしい。 「欧介?」 「司…?」 お互い煙草を握ったまま、一瞬時間が止まった。 嫌って別れた相手じゃない。懐かしむほど時間も経っていない。 一言二言話したら、お互い同じことを考えているのが分かった。 カウンターでキスをした。 それからすぐにタクシーを捕まえて、家に向かった。 玄関で靴を蹴るように脱ぎ散らかして、相手の身体をまさぐり合いながら家の中に入った。 リビングの固い床の上で、司は俺に覆い被さった。 明日の朝、大阪に帰ると言った。今夜しかいられないと。 それが言い訳にならないことはわかっている。 ただ、抱かれたかった。 司も同じだと感じた。 司のキスに、理性が飛んだ。 律と時間をともにするようになってから、しばらく家にセックスの相手を呼ぶことを控えていた。 ただでさえ最初のイメージが良くない。はち合わせたりしたら、目も当てられない。 気をつけていたのに、その時は、何も考えられなかった。 司のキスが、恋しかった。肌が、腕が、髪の香りが。 司はキスをしながら、俺の服を脱がせた。 大きな手の肌触りが気持ちよくて、それだけで興奮した。 俺は、淫乱だから。 男の身体がないと生きていけない。 「欧介…っ」 「司…っあ…っ…は…っ」 リビングの電気は消えていた。カーテンを開けたままの大きな窓から、満月の明るい光が差し込んで来ていた。 仰向けになった俺の場所からは、律の部屋の窓が見える。 電気がついていない。 もう時間がないとでも言うように、少し乱暴に司は俺を抱いた。 司の熱い舌で乳首を弄ばれて、堪えられなくて声が出た。 「んっ…ぁ…つかさっ…」 デニムを脱がされて、下着の中はもう、司を待ってはちきれそうになっていた。 口で下着を引っ張って下ろされると、先端がもうぬめってしまっていて。 おうすけ、と名前を呼んで、司は俺のそこを咥えた。 じゅる、と音を立てられて、息が漏れる。 強く、甘く吸われて、腰が勝手にびくつく。脚の先まで痺れていく。 口に含んだまま、司の指が後ろを弄る。 とろりと、生ぬるいローションが垂らされる。 「ん…っ両方っ……無理っ…あぅっ……んっ」 指先にいやらしく焦らされて、俺はもうぎりぎりだった。 背中を反らせて堪える俺の中で、執拗に司の指がうごめく。 「も…いいから…っ…つかさぁ……っんぅ…」 俺の声を聞いて、司が笑った。 「もういいのか?」 「…早く…っ」 司は俺を四つん這いにさせた。身体が期待して、勝手に尻が上がる。 熱く硬い司のそれが肌に触れたとき、またうわずった声が出た。 「は…ああ…っ」 ゆっくり肉を割いて司が入ってくる。尾てい骨から背骨がぞくぞくする。良く知っている司の身体。この感触も、まだ覚えている。時間をかけて最後まで挿れると、司は以前のように、俺の背中をさらりと撫でた。そしてそれを合図に、司が動き出す。 ずちゅ、ぐちゅ、という淫らな音で、繋がっていることを感じられる。 激しく突かれて、冷たいフローリングの上で手が滑る。 司が言った。 「欧介…窓に、手、ついて」 司に言われたとおり、俺は窓に両手をついて立った。 腰を掴まれて、司が改めて挿入ってきた。腰のリズムと一緒に、窓ガラスが、ぎっ、ぎっ、と鳴った。 強く突き上げられて、俺の身体は窓ガラスに押しつけられた。 通りに面していないから、誰にも見られることはない。夜の庭に向いているだけなのに、ひどく興奮した。背徳感が半端ない。 前が冷たいガラスに擦り付けられて、もう、限界だった。 深く突き上げられた瞬間、顔が上がって、みっともない声が漏れた。 「あぁ…っ」 俺はどんな顔をしていたんだろう。 昔、司は、エロくて可愛いとかなんとか言ってた。男同士で可愛いとか、ゲイじゃないと言わない。 どう見ても、可愛くはないだろう。   暗かったはずの律の部屋の明かりがついているのを見たとき、俺の頭は真っ白になった。 男に抱かれて喘ぐ俺を見下ろした律の顔は、とんでもない光景に驚き凍りついていた。 ノンケの高校生男子が、男同士の性行為をもろに見てしまったんだから、当たり前だ。 見られたくなかった。 せっかく、普通に話せるようになったのに。 信頼してくれたと思ったのに、こんな浅ましい姿を。 しかし絶望しながら、俺は、司に突き上げられて、果てるまで止められなかった。 欲望を優先した。 俺は、やっぱり淫乱だ。 律。 嫌わないで。 こんな俺を、お願いだから。

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