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006.思うにあれこそ、人生で一番賢かった瞬間

「なんだよオマエ、それハンカチじゃねえじゃーん!」  ギャハハハハ、という友人の笑い声が、いつもの十倍増しに耳障りに響いていた。  あれは中学時代、風紀検査でハンカチを持ってるか確認されていた時のことだ。  柄が似てたとはいえ、あろうことかパンツをポケットにねじ込んでたとはオレ自身思ってもいなかった。運悪く出した拍子にブリーフが翻り、クラス中の注目を浴びせられたわけだった。 「それオマエのパンツ? まさかオヤジのなワケねぇもんなぁ?」  しかもアニメ柄だったのがまた救えない。面白がって友人が広げて掲げたりするもんだから女子は一斉に顔を覆って離れてくし、もー最悪!  どうしたものかって必死に考えていたその瞬間、ちらと視界の端に見えたのは学級委員長の顔だった。 『馬鹿じゃねえの? コイツ。』  軽蔑しきった顔を向けられて、どうして平然としていられただろう。ああそうだ、オレはその学級委員長が好きだった!!  入学式の日に一目ぼれ。でもあっちはただでさえ女子にもモテまくりで、男のオレなんて手も届かないような高嶺の花。  そんなアイツに虫けらを見るような目を向けられた瞬間、オレは、オレは……頭が真っ白になり……、 「あっそれ、恋人のパンツです。」  迷いなく学級委員を指差しながら、真顔でとんでもない法螺を吹いてしまったわけである。 「なにニヤニヤこっち見てんだよ。」  あの時の学級委員長が、今ではオレの恋人だったりするんだから、世の中は不思議なものだよな。 「いや、コーヒーいらないかなって聞きに来ただけ。」 「……いる。」  昔のことを思い出してただなんて正直に言えば、今でも大目玉だ。  オレのあの一言のせいで、コイツは女子たちから逃げられた。オレの家にパンツ忘れるなんて、いったいナニをしていたんだろうか、ってさ。  一週間もした頃には「一生責任取ってもらうからな!?」って、あちらからご指名がきた。というか襲われたと言うべきか。もちろんお互いそれが初めてで、いい歳になった今でもオレたちはお互いのことしか知らない。 「ほら、熱いから気をつけろよな。」 「ああ。」  バカみたいな馴れ初めだったけど、一生責任とっていくつもりだから。  そんな気持ちを込めて淹れたコーヒーを渡しつつ、今日もオレは恋人と幸せなキスをする。

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