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第1話 痛み
どこで、間違えてしまったのだろう。
「気持ちぃ?優月 。」
どこで、道を踏み違えてしまったのだろう。
「気持ちいいって言えよ。」
バキッ。そう言って頬を殴られた音が、ギシギシと軋むベッドと共に部屋の中に無機質に響く。身体に残る痛みに、これは現実なのだと思い知らされる。
「 っ気持ち、いい。」
そんな訳がない。身体中を這われ、犯され痛めつけられ、気持ち悪くて吐きそうだ。
「うん、よかった。俺も気持ちいいよ。優月の中、すごく気持いい。」
ひとり恍惚としている樹 に恐怖を感じる。狂気の籠った瞳は愛おし気に俺を見ている。
「好きだよ、優月。俺を捨てるなんて許さない。」
俺の上に跨り、腹の奥に欲望を吐きだしてくる樹がそう耳元で囁いてくる。
「………。」
狂っている。俺も、こいつも。この関係も。だけど、きっと狂わせてしまったのは俺なのだろう。
「あれ、だんまり?まあいいけど。射すね。」
黙って考え込んでいると、旋律が速くなってそう言われる。
「え?やっ」
吐き射されたそれは、愛か、欲望か、それとも執着か。俺がそれを知る術は、何もありはしなかった。
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