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第2話 幼馴染
「あんな奴とは縁を切るべきだよ、咲森くん!」
(ああ、鬱陶しい。)
「中村が言う程悪い奴じゃないよ、あいつは。」
昼休み。現国の先生に頼まれて資料を運ぶさなか、俺、咲森優月 はクラスメイトの中村に幼馴染である三峰樹 との絶縁を迫られていた。
「最近では他校の生徒を妊娠させたっていう噂もあるし…。今日だって、久々に来たのはそのことで先生に呼び出されたからだって…!咲森くんの将来の為にも、縁を切っておくべきだよ!」
そう言って一人隣で喚かれる。これでいったい何度目のやりとりだろうか。というか資料重たいんだから呼び止めるなよ。
「………。」
不意に、視界の中に樹の姿が見える。男女ともに大勢の人々に囲まれている姿は、まさに人気者と言えるだろう。
(ま、あいつは独りになりたくないだけだから、結局は誰でもいいんだけどね。)
虫がいくら群がっても、所詮その他大勢でしかないのだ。
「心配してくれてありがと。でも大丈夫だから。」
笑顔を作って笑いかける。すると、照れたように目を逸らす。
「でも…!」
そして再びこちらを向き、言葉を続けようとする。
「ゆっつきー!」
いいかげんしつこいと思い煩わしくなってきた時、話題の当人である樹が後ろから抱き着いてきた。
「樹!」
肩にのしかかる重量に、上を見上げる。そこには、満面の笑みを浮かべた樹の顔があった。
「チッ。」
中村は軽く舌打ちをして去っていった。
「優月、何してるの?」
肩に重量を乗せたまま、樹が尋ねてくる。
「見た通り。資料運んでんの。ていうか樹、他校の奴孕ませたの?噂になってるけど。」
資料を運ぶと聞いてから差し出された手の上に、資料を引き渡しながら尋ねる。
「そんなヘマしないって。それに、親に愛されない子供なんて虚しいだけだよ。」
自分の過去を思い出しているのか、少し俯いてそう返された。
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