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第3話 関係
「そうだ。ねえ優月、今日泊まりに行っていい?」
樹は毎晩、俺の家に泊まりに来たがる。昨日も、樹が眠ったのは俺の家のベッドだった。
「いいよ。いつもみたいに窓から来る?それとも玄関から来る?」
樹は、家に入ると外に出るのが面倒くさいのか、向かい合わせになっている俺と樹の部屋のベランダをまたいでくる。
「んー、今日は優月と一緒に帰りたいし、玄関にしようかな。」
そう言って、樹が笑う。
「分かった。」
話していたら資料を運び終わったので、樹とはそこで別れた(樹と俺はクラスが別)。
「優月ー!!」
放課後、樹が教室まで迎えに来て、それから一緒に帰った。
「でねー、いつもご飯くれるおねーさんと歩いてたら先生と鉢合わせちゃって、しかもおねーさん先生の奥さんらしくてさ~。ちょ~っと怒られちゃった。」
樹には帰ってご飯を与えてくれる人も、金を与えてくれる人もいない。だから、自分でそうやって稼いだり、貰ったりして生活している。
「へー、それで呼び出されてたんだ。」
(てか樹に飯奢ってる奴人妻だったのかよ。)
「うん。」
怒られたと言っていたが、樹には全く反省する気がないようだ。
「ま、気をつけろよ。」
そんなことを理由にこいつを手放したくはない。
「優月…!」
樹がきらきらとした眼でこちらを見る。
「おい優月ぃてめぇ!まだ帰って来ねえのかぁ!ぁあ!?」
そのまま樹が俺に抱き着こうとしたところで俺の家の中から怒声が響く。
「…はぁ。悪い、樹。やっぱ今日は窓から入って。朝鍵開けといたから。」
怠い。煩わしい。最悪だ。帰って来ていたなんて。
「…俺、あいつ嫌いだ。」
樹が悲しそうな、寂しそうな声でそう言う。手を俺の制服へともって、掴んで放さない。
「大丈夫だよ、俺は。死なないから。いい子で待ってな。」
「ん。」
そんな樹の額にそっとキスをして、玄関へと足を、踏み入れた。
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