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第19話
「俺と話す気になったようだね。うれぴいよー」
兄は破顔一笑させ、嬉々として話し出した。
「俺って超イケててカッコいいから他にもたくさん縁談話があるんだけどさ、その中でも衝撃的な事件があって」
兄はその話で何か思い出したのかクスリと笑う。
「縁談場所の店に来たのは相手の親だけで肝心の相手がいなくてさ、相手の方はどこですかって聞いたの。そしたら、体調が悪くて不在ですって言うんだけど、様子がどうもしどろもどろでおかしいと感じたのよ。んで、とつぜん外が騒がしくなって様子を見に行ったら、一人の男が暴れてんの」
「こわーいよねー」と兄は恐怖で怯える少女さながら、甲高い声を発し、両手の拳を握って顔近くまで上げた。
「それでどうなったの?」
少しだけ、ほんの少しだけ話の続きが気になって催促する。
「周りの人間が総出でその男をとっ捕まえたよ。そしたら相手の親が目をひん剥かせて、私達の息子ですって言うの」
「まさか…」
「その男はΩで親が勝手に縁談を持ち掛けたことに気づき、激怒して俺達のところに来ったわけさ。…んで、ここから面白いところなんだけどな」
兄は手と手を合わせパシリと音を響かせて、俺を見る双眸を弧を描くように細めた。
「その男、まったくΩ然としてなくて体はでっかいし、顔もいかつくて、何より首輪をしてなかったんだ」
Ωが着ける首輪は事故で番にならないようにする言わば、番防止のためのアイテムだ。それを着けていないということは何時でも望まぬ番が成立してしまう危険が付きまとう。
首輪を着ける着けないは本人の意思だが、そんな危険が付きまとうのでは着けるΩがほとんどだ。そもそもそれが暗黙の了解となっている。
「その人が実はβで親が偽っていたという可能性は?」
「ないかなー。その男の親がなんで本人に黙って縁談を持ち掛けたかというと、首輪を嫌が応でも着けない我が子が知らぬ奴に無理矢理番にさせられはしないか心配で、それならその前に番を見つけようって魂胆だったから。現に俺の他にも縁談を持ち掛けてた相手は何人かいたみたいだよん。逆にそれがその男の怒りの火種をつける発端になったんだけどねー」
そりゃ首輪を着けないなんて危機感もあったもんじゃないしな、とその男の親に哀れにた感情を寄せた。
「んでんで、その縁談は騒ぎが起こったことと、Ωの男が断固の拒否ってしゅーりょーよ」
「珍しいΩだったんだね。その人」
「レアケ中のレアケっしょ、そんな奴。でも、そんなΩがお前の学校にいるんだよなぁー」
兄がにんまりとした顔でジッと見つめてくる。
「俺の学校に?」
意味がうまく呑み込めず、聞き返す。
「その男が着ていた服、お前の高校の制服だったもん。これこれ、こんな校章マークが刺繍されててー」
そう言った兄が俺の胸ポケットの校章を指でさしてきた。
「それからΩの男の親から聞いた話ではお前と同い年だったよん。名前は確か…」
ドクリと脈が波打つ。何だかこの先の兄の言葉が良くないと感じた。だが、無慈悲にも兄は次の言葉を発し…
「鈴村光太郎、だったかな」
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