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第20話
「ただいま帰りました」
「直幸っちおかえり」
「おかえり…」
直幸がレジ袋を携えて帰って来た。
あの後も俺は兄の話に付き合わされていた。
結構な時間を兄に費やしたが、内容はほぼ憶えていない。
俺の頭の中を占めるのは鈴村のことだった。
鈴村がΩ…。何度もそう反芻してるが実感が湧かない。奴からいじめを受けたときからの関りだが、正直やつがΩだとは思えない。それもそのはず、奴にはΩらしさが一つもないのだから。
筋骨隆々とした体は華奢な体が特徴のΩとはほど遠い。首輪だって一度も着けているのを見たことがない。
それに…、とある考えが浮かぶ。
Ωには少なからず匂いがするはずだ。αを引き寄せる忌々しきフェロモン。奴にはそれがない。あの歳なら発情期だって迎えていると思うが、それらしき期間もなかった。
だがしかし、と頭を悩ませる。
兄が嘘で話したことではなさそうだし、全てを信じるならば、兄の他にも縁談の相手は何人かいたのだろう。そして、それは鈴村の両親にとっては大変なこと、と考える。実際にその人達になったわけじゃないし、ましてや近しい立場にすらなったことはないが、何となくそんな風のように思われる。同時にやはり鈴村がΩでどうにかしたいと思わなければそこまで動かないのではないかと考える。そもそもあの強面で凶暴性のある鈴村だ。親とて怖いに違いない。その鈴村の意向を無視して縁談を持ち掛けるのだから鈴村がΩなのは本当なのだろう。
そこまで考えて、振り出しに戻る。
鈴村はΩ然とはまったくしていない。フェロモンだって発情期だってそのような様子を見せたことがない。
しかし、と考えを改める。
何かからくりがあって、なくした、あるいはないように見せかけているのかもしれない。
俺はΩではない。だからΩについて全てを知っているわけではないのだ。鈴村はその抜け穴をついているのかもしれない。
依然として、謎は解決しないままだが、それでもいいと思った。
肝心なのは鈴村はΩということだ。
鈴村がΩ性ということは利用できるに違いない。
俺はある作戦を頭の中で練り上げる。
これが成功すれば、俺へのいじめをやめさせることが出来るかもしれない。
もちろん絶対成功するとは言えないある種かけのようなものなのだが、しないよりはしたほうがマシだと考える。
「よし…」
俺は己の意思を奮い立たせるようにソファーから腰を上げる。
「あれ、奈留どこ行くのー?」
いつの間に移動していたのだろうか。兄は直幸の傍に居て、テーブルの方から声がかかった。
「自分の部屋」
「りょーかい!」
話し相手が俺から直幸に変わったのか、今回はさして引き止められず、あっさりと承諾を得ることが出来た。
「奈留お坊ちゃま、御夕飯の支度が終わりましたら、お呼びしますね」
「ああ」
俺は直幸に向けて軽く手を上げ、リビングから去った。
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