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第4章 第1話(1)

「空き巣!?」  早瀬の発した()頓狂(とんきょう)な声に、莉音はどう反応していいのかわからず困ったような笑みを浮かべた。  月曜の朝。場所は、莉音のアパートではなくヴィンセント邸の玄関先でのことだった。  金曜の夕方、在宅の仕事を終えたヴィンセントに伴われ、予約していたレストランに向かった莉音は、そこで、これまで食べたこともないような豪華な食事を堪能した。  ヴィンセントが連れて行ってくれたのは青山にあるフレンチレストランで、そこに行くまえに、表参道にあるセレクトショップにも連れて行かれた。  予約してくれていたレストランは本格的なドレスコードが求められる店ではないものの、家事をする目的でヴィンセント邸を訪れている莉音は、着古したトレーナーとジーンズ、フード付きのマウンテンパーカーといった出で立ちで、さすがに難ありと判断されたためだった。  さして値が張るものではないし、食事に付き合ってほしいというのはこちらの勝手な都合だからと、ヴィンセントはなんでもないことのようにその場で見立てた服一式を莉音に買い与えた。  莉音の感覚からすれば、値が張らないどころか、家中の服を掻き集めたとしてもジャケット一枚にすら届かないのではといったところだったが、たしかにいまのままではヴィンセントに恥をかかせることになりかねない。自分では到底買うことができない値段だったので、いずれは出世払いでお返しすることにして、今回のところは素直に好意に甘えさせてもらうことにした。  レストランのほうも、莉音がそういった場に慣れていないことを見越したうえでの予約だったのだろう。通された席は個室になっており、周囲の客やスタッフの目を気にせずに済んだおかげで必要以上に緊張することなく料理を味わうことができた。  未成年の莉音に合わせてヴィンセントも食事の場ではアルコールを口にせず、帰りもみずからの運転で莉音を自宅アパートまで送り届けてくれた。  早瀬からは難しいところがあるような話を聞いていたが、ヴィンセントは終始穏やかで、莉音が気兼ねなく過ごせるようつねに気を配ってくれていた。  心からの感謝を述べて、よかったらコーヒーでもと誘ったのは、夜九時過ぎくらいの時間だっただろうか。ふたりで階段を上がって、いつもどおりに二階の自室まで戻ったところで愕然とした。  朝、たしかに鍵をかけて出たはずの玄関のドアが開いており、中は足の踏み場もないほど荒らされていたのだ。  その場で立ち竦む莉音にかわって警察に通報したのはヴィンセントで、駆けつけた警察官への対応もほとんど彼がしてくれた。莉音はショックが大きすぎて冷静に対処することができず、ヴィンセントの横でただ茫然とするばかりだった。

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