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自粛、休業要請、突然出来た望んでもいないまとまった休み。 金はなんとかなるだろう。だけど時間を潰す事だけはどうしようも出来ない。 生きる事は死ぬまでの暇潰し、誰かがそう言っていた。確かにそうだと思った。 俺は時間を潰すのがとても苦手で、一人で過ごす事も苦手で、だから他人からどう言われようが関係なく仕事漬けの日々を送っていた。 それなのに、現在世界的な感染症とやらのおかげで俺は1人の時間を過ごさざるを得なくなった。朝起きて仕事に出る支度をする事もなく怠惰に過ごし時折来る仕事場からの連絡に対応して夜を迎える。 外に出なければ飯も食わない。身嗜みを整えようとも思わない。一人は俺を腐らせる。 随分伸びた髭を指先で撫で、風でそよぐ濃い青のカーテンを見る。窓から薄桃色の花びらが部屋に入り込み、そうか今は春だったな、だなんて今更ながらに思い出す。 気怠い身体を起こし、安いベッドのスプリングを鳴らしながらフローリングをペタペタと歩く。しゃっとカーテンを滑らせて開いた窓から見えるのは満開の桜だ。毎年見事に咲き誇るそこには、今は誰もいない。 例年この時期になると綺麗だ写真だと賑やかなのに、なんとも物悲しいものだ。 丁度見下ろせる位置にある桜と、目線を前に向ければ見える街並みがあまりにも静かで、世界に自分一人しか居ないんじゃないかとさえ錯覚する。 ああだめだ、やはり一人だとロクなことを考えない。 眉間にシワを寄せて片手に握ったままだったカーテンを引いてまた一人の世界へと戻る。 そっと手を離して部屋を見渡すようにして振り返ると目に入るのはよく言えばシンプル、悪く言えば殺風景な部屋。最低限のものしか置かない、俺はミニマリストというやつらしい。 床に落ちていた花弁を拾いそれを何も考えずに眺めていたらなんだか捨てるのが惜しくなった。そっとテーブルの上に置いて、携帯を手に取る。 通知画面にはなんの連絡もない。友人と呼べる人さえ、俺にはあまりいなかった。 「…暇だ…」 この休暇中何度口にしたか分からない言葉を吐いて携帯を片手に安いシングルベッドに背中から落ちる。ギシっという音がやけによく部屋に響いた。 「……なんだ、これ」 寝ながら操作するスマホの画面に映ったのは見慣れないアプリ。 入れた覚えなんてないが、入っているということはきっと俺が自分で入れたんだろう。 タップして開いてみればそれはチャットアプリだった。ID登録も何もしていない真っ新な状態のそれにおかしくなってつい口角が上がってしまう。 丁度良い暇潰しになるかもしれない、そんな予感がした。 ハンドルネームを決めて使い回しのパスワードを入力すれば登録は完了。そこからアバターなんてものを作ってしまえばあとは適当に時間を潰すだけ。 何か面白い発見があれば良い。僅かな期待を胸に指先で画面をスワイプしていく。 この時俺は思いもしなかった。このアプリで暇潰しどころじゃなくなる事態に陥るなんてことを。

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