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第3話・それでも大好きなあの人。(1)

 痴漢だと思っていた人がまさかぼくが追っかけをしていた先輩だって判明してからどれくらい経っただろう。  昨日のような気もするし、ずいぶん前のような気もする。  あれからぼくはもう、先輩の姿を見ていない。  とても人気な人だから意識しなくてもすぐに見えてしまうけれど、なんとか目を逸らして先輩を見ないようにしている。  うう――ん、違う。 『見ない』じゃなくて、『見られない』んだ。  だってぼくは、先輩に不快だと思われるようなことを平気でしていたのだから……。  ぼくは先輩に嫌われていた。  そう実感すれば悲しくて、また涙があふれてきてしまう。  もう、どうすることもできない。  本当は学校にも登校したくなかったけれど、お母さんが頑張って働いて授業料を出してくれているし、ぼくもお母さんの手助けをして家計をなんとかしたいからアルバイトもしなきゃいけない。

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