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第1話

 長い髪を後ろで束ね、黒のパンツスーツに身を包んだ女・ミカモト-御神本-は墓参りから帰る途中だった。恋人のラグナ-蘭紅-を失ってひとつきほど経つ。街は日が暮れなければどこもかしこも静かで退廃地区にさえ思えた。夜になればネオンが光り、酒や美食、賭博や性に皆々が溺れた。その文化から身を引いてまだそこまで日は経っていないが懐かしく感じられる。街の暮らしとは反対の朝起きて夜に眠る生活はミカモトにとってそこまで悪いものではなかった。歓楽地区に住まう人々に会わなくて済んだ。ラグナと出会い、彼が苦しんだネオンと紫煙と喧騒、乾燥と甘い芳香が嘘のように消え果てた地をミカモトは歩いてアパートへ帰っていく。  ミカモトは以前まで歓楽地区の特に最奥に位置する大きな娼館の支配人を護衛する仕事に就いていた。萎びた亜麻色の髪の青年ラグナとはこの娼館で知り合った。そこは大きな娼館の支配人というだけでなく歓楽地区に幅を利かせている資産家ミモリ-三森-が小さな頃から養い、仕込み、そして飽いた性奴隷に値段を付け働かせているのだった。労働環境は良くなかった。病や怪我をして姿を見なくなった者たちをミカモトも何人か知っている。ラグナはその中の1人だったがミモリの気に入りで、治療と世話を任されたのがミカモトだった。彼女は後の恋人となるその性奴隷をアパートへ連れ帰り、寝食の面倒を看た。隣街から医者を呼び、必要な時は大診療所へ連れて行った。彼を治すことがこの時の彼女にとっての最優先事項で、ミカモトの生活は仕事か病人の世話に二分されていた。そのうち性奴隷は彼女に沢山のことを話しはじめた。しかし時折情緒が乱れ、激しい不安状態に陥ることがあった。そういう時の対処をミカモトは街の中で見かけた親子から学び、話すことが得意ではなかったが彼のために本を読んだ。感情の籠もらない声で字を追い、彼が眠れるまで何冊も本を読んだ。懸命な看病の末、ラグナは店に復帰した。ミモリは気に入りの性奴隷との再会に喜び、ミカモトはさらにミモリの側近として重用されることになり、息子しか入ることのできない私室への出入りも許可された。社交界やショッピング、定期検診、どこに行くにもミモリはミカモトを連れて行った。他に並ぶ者もいないほどの権力を持つこの淫蕩な資産家は息子を過度に恐れていた。時折ミモリはミカモトへ媚びるような態度すら取った。  雇主は私室に気に入りの人形を呼び寄せては快楽に溺れた。ミカモトはそれを透けた天蓋カーテンの外から見守っていた。ラグナはほぼ毎日のようにここに呼ばれていた。看病していた頃によく洗った裸体がミモリの脂ぎって丸々とした小柄な身体に組み敷かれ、その弛んだ尻に、浮腫まぬようにと揉んだり摩ったりしたしなやかな脚が絡んだ。立派なベッドは他の個室と違い軋むことなく、ミモリの興奮した息遣いとラグナの泣き叫ぶような声と衣擦れの音ばかりがミカモトの耳を占めていた。ラグナは透けた天蓋カーテンの中から外側を見つめてはミモリに頬を叩かれていた。情交中は私室に息子を入れるなど命じられているために部屋に入って来ようとした息子と掴み合い、殴り合いに至ったこともある。この息子というのはミカモトから見て非常に怒りやすく気の短な人物だった。ミモリが満足し、肉人形が出てくるまでミカモトはこの支配人の息子を足止めしなければならず、この攻防戦が終わる頃には互いに疲弊しボロボロになり、裸同然で退室したラグナは廊下の端で立てずにいるミカモトを気遣った。彼は自分の寝泊りしているタコ部屋へ案内し、数少ない私物から消毒液と絆創膏を出して手当てをした。2段ベッドがいくつも並びその上にしか個人のスペースはなく、枕元やベッド下にあるわずかな私物が個々の場所を示していた。ミカモトは過重労働に見合わない粗末な部屋を眺め回し、ラグナは取るに足らないことを話していた。ミカモトは彼の縛られた痕や掴まれた痕のある腕をまた病人の時のように揉む気になった。  そのような日々が長く続いた。相変わらずミモリはラグナを毎晩のように抱き潰し、ミカモトもそれを監視する日が続いた。ラグナは厳しい体勢のまま長時間犯されることもあれば道具によって拷問の如く辱しめられることもあった。息子もまた懲りずに私室に入ろうとするためミカモトは雇主の息子を殴ったり、反対に殴られたりすることも変わらずあった。ラグナは疲労困憊といった様子でも私室を死守したミカモトをタコ部屋に連れて行っては消毒液を塗った。絆創膏はもう尽きたのだと彼は言った。消毒液ももうすぐで尽きそうだった。ミカモトは彼にもう少し質のいい絆創膏と消毒液を買った。暴力的な客によって付けられた裂傷に使っていたらしく軟膏もそこに加えた。  目の前で足音がした。故意的に、しかし自然な靴音だった。よく磨かれた革靴が視界に入る。その持主ならば足音も気配も殺し接近できたはずだった。ゆっくりと上質なスラックスを辿る。背の高い青年は薄い二重目蓋と切れの長い目でミカモトを見ていた。櫛が綺麗に通された髪は艶やかで寸分の隙もない。すれ違えば誰もが振り向かずにはいられないような、恐ろしいほどに美しく整った顔はミカモト同様にわずかな笑みも浮かべていなかった。暫く殴られた様子もない。行手を阻む男は何か用があるらしかったが一向に口を開かず、ただ吟味するように冷たい眼差しが彼女の爪先から脳天までを何度か往復した。ミカモトのほうでも顎を動かし喉を震わせるのが面倒でそこに立ち止まったままでいた。やがてミカモトの足元に札束が叩き付けられた。彼女はぼんやりと白く照る革靴を見下ろしていたが徐に顔を上げた。 「香典チップはそれで足りるか」  腰が砕けるほどに甘い質のある声は嫌味たらしい色を帯びていた。侮蔑を含んだ目と目が合うと彼は踵を返し、静かな街へ消えていった。ミカモトは足元に投げられた札束を拾い、犬や猫の保護に熱心な執着をする団体の募金箱にそれをぶち込んだ。木造2階建ての古びたアパートへ帰っていく。  消毒液や絆創膏、そして軟膏の入った紙袋を渡すとラグナは喜んだ。その表情は初めて見る気がして彼女の脳裏に今でも貼り付いている。  遅くまでミモリは他の性奴隷と淫らな時間を過ごしていた明朝、あのタコ部屋の前を通りがかり、そこでまだ起きているラグナを見かけた。何か紙を眺める姿をミカモトは廊下から見つめた。彼は痣や傷のある顔を上げた。(たち)の悪い客に当たったらしかった。目が合う前にミカモトはこの部屋の前から立ち去った。何か考えが浮かんだわけでもなく、ただ足は勝手に帰路に就くよう急かしていた。しかし背中に気配を感じてしまうともう歩いてはいられず振り返った。ラグナは風に当たりと言った。病人だった頃彼があまりにも不安定で眠れない時ミカモトはアパートの窓を開け放ち、布団を引っ張っては夜空を見せていた。これもまた夜泣きをする赤子を抱いた母親がそうしているのを見たのだった。ミカモトは彼に付き添って青く暗い外に出た。暫く互いに黙っていたが彼は特に中身のない話をするのだった。風はあまりなかった。それでもラグナは寝る前の薄着で小さなくしゃみをした。また病人になったのだと彼女はジャケットを羽織らせる。肩の幅がまるで違った。彼はそれを笑い、そして返した。近付いたついでに携帯していた傷薬をその口角や目元の傷に塗った。これはミモリの息子と格闘した時のために持っていたものだった。しかしあまり使った試しがなかったため痩せた手に傷薬のケースを握らせた。  その数日後にミモリに連れられミカモトは大きなパーティーに参加した。飽くまでも護衛という立場だったが、それでも煌びやかなドレスや洒落た意匠のタキシードは彼女に新たな感慨を与えた。特にそれは会場に居る時にではなく娼館に帰ってから強く感じられた。タコ部屋はもう暗かったがミカモトは廊下にぼんやりと立ち竦み黒く塗られた室内を眺めていた。ラグナが出てくるのではないかとわずかに願っていた。  ラグナはまた気性の荒い客に当たったらしく片方の頬を腫らしていた。ここのところ彼はミモリの私室に呼ばれなくなっていた。あの支配人は最近新しく拾ったというまだ年端もいかない美少年に夢中だった。ラグナに対するのとは違い淫蕩な俗物はその新しい人形には猫撫で声で接し、服を脱がすのから着せ替える、慣らすのから掻き出すまですべてを己の芋虫のような指と脂肪に包まれた手で行った。最初は助けを求められたこともある。ミモリはラグナに飽いたのだ。  ラグナの使っていた食器を紙に包んで箱に詰めた。今後使う予定はないが、かといって捨てる気にもならなかった。いずれ、時が来たら使える日が来るのかも知れない。部屋には昼の風が入った。狭い部屋に2人で暮らしていた。もう少ししたら引っ越すつもりでいたが別の理由によってミカモトはダンボールの傍に座っている。やっと、もう彼は帰って来ないのだと理解し始めてきていた。それまではまだ期待のようなものがあった。都合の良い夢のような。まだ期待をしていたかったが理解は自然とされていくものだった。彼の食器を片し終わり部屋の隅に置かれたラグナのわずかな私物が目に入った。中身を見ることは躊躇われたが草臥れた麻の袋の口を開けた。中身の減った傷薬とわずかに使った形跡のあるティッシュ、薄い粗末な財布と壊れた時計、綺麗に畳まれた絹のハンカチーフと掌に収まる小さなプレゼントボックス、傷んだ手紙が1枚入っていた。あまり詮索できずミカモトはこのプレゼントボックスを開けることも手紙を読むことも出来なかった。ティッシュだけ捨てて、後はまた麻の袋に戻した。食器を詰めた箱に収める。  ミモリの息子はラグナを恨んでいるようだった。身請け話がミモリの秘密裏に行われていたのをミカモトは知っていた。偶然の盗み聞きで、ラグナを引き取りたいという客はこの土地では有名な暴力組織の1人で、彼やその他従業員だけでなく別の客にまで甚振る迷惑者だった。断る手はあったが多額のツケ払いを踏み倒そうとしている客たちを脅すのにこの歓楽街はこの組織を利用している。ミモリはこの集団を恐れてもいた。ラグナは今日も身請け話など知らずに身を削り働いている。使い物にならなくなったなら公衆便所して社会貢献させてやるのだと客は豪語していた。ミモリの息子は相槌を打つだけで、店から出て行く奴隷の扱われ方について何も思うところはないらしかった。ミモリはまた新しく拾ったという美男子に夢中で、ラグナが呼ばれることはなくなっていた。ミカモトは夜な夜なタコ部屋の前に立ち、寝静まった暗い空間を眺めてはそこに眠るラグナへパーティーで見た瀟酒(しょうしゃ)なタキシードや華美なドレスを重ねた。彼は襤褸か商売用の錦だけを着て終わるのだ。ミカモトは気付くと繁華街に出て絹のハンカチーフを買っていた。風を浴びたいと言うラグナをミカモトは連れ出し、その時に握らせた。彼は少し困ったように笑った。受け取らない痩せた腕を掴み、度重なる擦過傷に黒ずんだ手首に巻いた。艶やかなドレスも絢爛なタキシードも彼の美しさには叶わなかった。ミカモトはラグナの節くれだった手を放せなかった。彼はまだ買われることを知らないはずだった。おそらく逃げ出さないように当日まで知らされないのだろう。しかしラグナは別れ際にミカモトへ秘めていた恋心を打ち明けた。ミカモトはただ目を丸くした。自分で飾ったハンカチーフとその痩せた腕の細さを見下ろすばかりでなにも答えられないでいた。ラグナもまた言ってしまったとばかりの惑乱した様子でタコ部屋へと帰っていった。  ミカモトは部屋の隅に置かれたラグナの聖牌へ両手を合わせた。やっと彼はどこへも行ってないことを知る。この聖牌にも彼は宿っていない。ただここに重ねるだけだった。他に行き場がないために。すると本当にそこに恋人がいるような気がした。そのまま糸が切れたように床に横たわる。淡い青と白い雲が窓から見えた。小鳥な囀り、遠くで低い音が響いている。少し眠った。郵便受けに入っていた書類を開け、真っ黒なスーツに身を包みまた出掛ける。  身請けの当日、ミカモトはラグナを連れ去った。拉致の如く、目覚める前の彼を抱えて。自分よりも背の高いラグナを担ぐのもミカモトには容易く、彼は騒ぐこともせずされるがままに誘拐された。古びたアパートで2人で暮らす。ラグナはミカモトの背に腕を回して喜んだ。煎餅布団1枚だけの部屋に家具や日用品が増えていく。窓にカーテンが掛かり、テーブルが置かれ、寝床はベッドになった。2人で並んで眠り、時にはミカモトはラグナを抱いた。ミカモトは女だった。ミモリもその息子も、そしてラグナもそのことを認識してそのように扱った。しかし彼女の股座(またぐら)には茎が生えていた。その機能も彼等と同じで大きく膨らみながら硬くなり、しまいには精を放つ。ラグナのあまり使われなくなった雄の象徴と合わせて揺れる日もあれば、ただ手を握ったり髪や頬に触れるだけの日もあった。彼の消えた娼館でミカモトは素知らぬ顔をして働き続けた。ミモリはラグナの失踪にも気付かないで、毎晩毎晩、気に入りの美男子を陵辱した。ミモリの息子も身請けの決まった床夫(しょうふ)が消息不明になったことに対して何の行動も起こさなかった。  騒ぎが起こったのはラグナを連れ去って暫く経った頃だった。ミモリの息子が父親の気に入りの生人形たちを売り払ってしまったという家騒動で、ミカモトはミモリからドラ息子をこの地から追放する誓約書を書かせるか殺害するよう命じられた。しかしミモリの息子はそれを察していたらしく街から姿を消してしまった。ミモリも自らが任じた命をすっかり忘れたようにミモリの息子を話題に挙げることもなく、またどこから拾ってきたのか美男子たちを組み敷いていた。ミカモトはその間もミモリの息子を探し回っていた。放蕩息子は隣街に身を潜めているらしかった。後日襲撃するつもりで帰宅したアパートにラグナの姿はなかった。開け放たれた玄関扉と争った形跡のある乱れたマットや靴やテーブルクロスをミカモトは黙って見ていた。ミモリの息子から別荘の招待状が届いている。ラグナはそこに居るらしかった。もうその日のうちにミカモトは街を出ていた。  娼館へ入ってミカモトはミモリに会いに向かった。私室の前にはミモリの息子、ドモン-土門-が壁に背を預け腕を組んで待ち構えていた。アイスブルーの瞳がミカモトを視線で制した。 「裏切り者が随分な待遇だな」  ミカモトはよく磨かれた革靴ばかり眺めていた。黒の蛇革の靴はその鱗の模様が白く反射しまるで金剛石をひとつひとつ嵌め込まれているようだった。薄い唇は陰険に吊り上がった。気にも留めず彼女は私室の扉をノックする。しかし真後ろから飛んできた拳にミカモトは素速く振り返って躱した。拳は贅沢に意匠を凝らしたドアに減り込み(ひび)を入れる。 「出て行け。父上が何を仰せになっても二度と帰ってくるな」  眉間ですらも整い、そこに皺を刻むことも厭わず凄むドモンを掴み、ミカモトはその美しい顔に何度目か分からない拳を入れる。投げ、投げられ、叩き付け、叩き付けられる。躱し、躱され、蹴り上げ、蹴られる。廊下に掛かった見事な書を程良く引き立て合う額縁が派手な音を立てて割れた。異国情緒のある花瓶も挿された花ごと両断される。カーペットに落ちた花を革靴やヒールが踏み(にじ)った。 「うるさいぞぃ!」  ドアの奥からミモリの声が聞こえた。脇腹を蹴り払われ壁に衝突したまま倒れていたドモンは立ち上がり、砂埃を被り足跡の付いたスーツを正した。花瓶の置かれた台の脇で尻餅を付いているミカモトのことなどもう意識にも無いとばかりの態度で父親の私室に入っていく。彼女もそれに続いた。ミモリは天蓋カーテンの奥でミカモトもよく知っている人物と情交に及んでいた。それはラグナだった。手足を拘束され猿轡を嵌められている。ラグナだった。 「これ!ドモン!貴様を呼んだ覚えはない!出て行け!」  でっぷりした尻を揺らしミモリはラグナらしき人物へ語調に合わせながら激しく腰を打ち付けた。天蓋カーテンが捲られ、そこから巨大な男性器を模したシリコンが投げ付けられる。ドモンはそれを胸元で受けた。しかし立ち去る様子は微塵もない。その冷淡な目はベッドを食い入る様に眺めるだけだった。 「御神本!何をボサっとしておる!早よ、其奴(そやつ)を連れ出さんかい!」  ミカモトもまたラグナにしか見えない人物に意識を奪われていた。失ったばかりの恋人の生き写しはしかしミカモトが知っている姿よりも若く映った。 「御神本!貴様にもこの性奴隷(まんこ)交尾(おまんこ)させてやる!早よぅ、其奴を連れ出せ!ワシに近付けるな!ワシに!ワシに!」  ミモリは尻の脂肪を揺らし、そこを感情の捌け口にするが如く強い腰使いでラグナによく似た青年を責め立てる。ラグナによく投げかけられていた卑猥な罵詈雑言がミカモトを現実に戻した。隣を向く。恍惚とした表情でベッドを見続けるドモンは天敵の目に気付くこともない。取り憑かれたようにベッドを眺め、峻厳な眼差しは和らぎ、斃死(へいし)した猫のような目と氷の上に横たわる魚のような瞳は蕩けている。 「御神本!貴様のすべてを許すと言ってるんだ!其奴を早よぅ締め出さんかぃ!」  ミカモトはミモリの息子の前に立ち視界を塞いだ。彼女の腕は即座に掴まれ、投げ飛ばされそうになる。私室を荒らしながら再び廊下で起こったような争いが始まった。猿轡から漏れる恋人の声によく似た呻めきがミカモトの頭を白痴にした。彼女は痛みも躊躇いもなくドモンに挑む。格闘の最中に折れた上等な椅子を振りかぶり、転倒したドモンに叩き付ける。しかし彼は間一髪でそれを避けた。そして起き上がる勢いを利用してミカモトは腹を蹴られ大きく後ろへ怯む。後方から聞こえるラグナの唸るような声が耳を支配し、ミカモトはドモンへ懲りもせず襲いかかる。ドラ息子を部屋から締め出せと言うミモリの(めい)はミカモトにとって最も難易度の高いものだった。完遂する頃にはどちらも無事では済まなかった。時には先に交合が終わり、ミモリがどこかへ出掛けてしまうことも多々あった。室内が荒れ、それでもミモリは陵辱をやめず、ラグナに酷似した青年は声を漏らす。ドモンの腕を掴んで投げる。下にあっま円卓が割れ、埃が舞った。首を掴むも、爪で引っ掻いただけで逃してしまう。 「おぉ…素晴らしい肉穴(おめこ)だ…きゅうきゅうな締め付けきよる。突くとこんなに締まる雄穴(おめこ)をワシゃ知らん…」  ミカモトの意識が逸れる。低い姿勢からの回し蹴りを顎で受け、彼女はよろめいま。ドモンはそのまま側転するように距離を取り、余裕のありげな笑みを向けると父親の部屋から去っていった。衝撃の残る顎を刺すってミカモトはベッドを振り返る。 「よぉやった。ほれ、こっちに来い。この新鮮な雄膣色(ピンクいろ)を見るがよいぞ。名器じゃ、名器。御神本よ、褒美じゃ。うんと突いてやるがよい」  ミモリはラグナによく似た青年の両膝を開かせ、結合部を見せた。両の足首を繋ぐ鎖が一直線に張る。眉の形、目付き、耳の軟骨。まるきりラグナだった。ミカモトはミモリを一瞥する。 「つまらんやつじゃ。ぽまえのその巨根(まら)は何のために付いておる?」  娼館の支配人は唇を尖らせ、麗しい性奴隷を下ろした。尻を突き出させ、厚い脂肪を揺らす。 「おぉ…っおお、そう締め付けるでない。()いやつよ……搾り取られてまうぞぃ…」  脂肪の塊が青年の腰の上でバウンドしているようだった。 「御神本。彼奴(あやつ)此奴(こやつ)を狙っておる。頼むぞぃ、すべてを許す。此奴を守れ。こんな有能雄穴(まんこ)はなかなかない。御神本。貴様(ぽまえ)の過去のすべてを許す。この名器(キツキツ)雄膣(まんこ)を拡げさえしなけりゃ味見をしてもいい。頼むぞぃ、頼むぞぃ、頼むぞぃ、御神本」  ミモリは青年を仰向けにして腰を持ち上げるとその上から乗った。腰が押し潰されそうな体勢で骨が砕けてしまいそうだった。 「あのバカ息子にこんな名器奴隷(キツまん)があるうちは命をくれてなどやれんからな!御神本、頼むぞぃ!御神本!おぉおっっおほぉ!」  脂肪に覆われた主は獣のように雄叫びを上げ、その下のラグナによく似た青年は目を剥いた。バケツをひっくり返したような大量の白濁が彼の肌理(きめ)細やかな皮膚を伝いベッドを汚す。 「ぁっあっ……あっ、!」 「中出しでイくとは、なんと可愛いやつだ。舌を出せ!キスをしてやろう!これからは毎晩受精させてやるぞぃ」  鎖がじゃらりと鳴った。ミモリは猿轡を外しながらまた腰を振り、青年の口元から滴る唾液を甘い蜜のように舐め上げた。ミカモトは近くから気を失うラグナの幻影を見下ろしていた。

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