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 汗の他に、大きな声ではとてもじゃないけれど言えない諸々で、ぐしゃぐしゃに乱れたベッドの上。汗で(これはさすがに諸々の方じゃない、はずだ)貼り付いた悟の前髪を、真木の指先で撫でつけられる。 「やっぱり俺、もう一回出演交渉してみようかな」 「え?」 「悟と一緒に『風呂めいと』出たいもん」  余韻が残るベッドの中で真木が神妙な顔付きになる。 「…………」 「ちょっと、なんで黙っちゃうのさ」  視線を遮ってくれる前髪が、悟の意思の外にあるので視線そのものを逸らすしかない。 「えっ? 悟くん、もしかして嫌なの?」 「嫌っていうか……」  もごもごと口の中で転がした言葉はどうしたって舌の上でざらついた。 「真木さんとBL出たいって言ってたじゃん!」 「……だって、恥ずかしいじゃないですか」 「へ?」 「だから! 演技じゃない素の喘ぎとかキスとか……もう知られてんのに、今さら演技するって」  カッと赤くなった皮膚が余すところなく真木の眼前に晒されてしまう。キラリと真木の瞳が三十一歳児の輝きを宿して、「だから言いたくなかったんだよ」と胸の内だけで悪態を吐いた。 「それはそれでえっちな気がする」 「はあ?」 「そういうプレイ、的な」  ふざけているのかと思いきや、存外に真剣な顔をしているので油断ならない。 「それに俺、演技の方がかっこよく悟のことリードできると思うんだよねぇ」  しみじみと真木は呟いたが、絶対にそれはないと断言できる。だって、最中に聞かせてくれた真木の切実な声音は、今まで悟が聞いてきたどんな真木の演技よりも魅力的でかっこよかったのだから。 「……ばか」  そして何よりもやっぱり大好きな真木のその声を思い返すと、また欲情がぶり返してしまいそうで、返事は限りなく幼稚な一言に集約させた。 「なに突然⁉ まさか反抗期?」 「しませんし、するならもっと別なとこでします」 「別って?」 「俺だって声優なんです」  だから、反抗はしないけれど対抗するならそれは、ベッドの中じゃなくマイクの前だ。 「真木さんがかっこよくリードするって言うなら、俺は真木さんよりも可愛く鳴いてメロメロにしてみせます」 「えー、十年早いんじゃない?」  不敵に笑う憧れの先輩の懐に潜り込む。十年分のキャリアの差は、簡単には埋められない。  だけど俺だって、自分の声を聞いてくれた誰かに、ほんの一秒でもプラスの気持ちを届けたい。 「十年かけて、追いつきます」 「追いつけなかったら?」 「追いつけるまでずっと、一番近くで真木さんの声聞いて勉強します」 「じゃあ絶対に追いつかれてあげない」 「そしたら一生、追いかけますよ」  まずは一番伝えたい人に、一番伝えたい言葉で。

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