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第19話 啓蟄③
バスローブ姿の桐葉が新鮮だったのでつい飛びかかったが避けられて、追い飛ばされるように俺もシャワーを浴びた。照明の色を変えられるレインボーバスで、恋人といちゃいちゃしながら入るのにはもってこいだと思ったが、生憎楽しんでいる余裕はない。黙々と念入りに下半身を洗った。
風呂を上がると、桐葉がベッドに寝転がってパフェを食べていた。テーブルには空のお皿二枚と、フライドポテトが並んでいる。ルームサービスで頼んだのだろう。
「行儀悪いな。ベッド汚れるぞ」
「自分ちじゃないからいいんだ」
「さっき焼肉食ってたくせに、もう腹減ってんのかよ」
ソファへ座ってメニュー表を読みながら、うっかり口走った。しまったと思っても後の祭りだが、桐葉は案外動じていなかった。
「やっぱり、つけてたんだな」
にやりと口元を歪ませる。
「お前の熱視線におれが気づかないわけねぇだろう。ただ、飛び出てくるとは思ってなかった。びっくりしたぜ」
「だ、だったらなんで何も言わねぇ。俺を泳がせて楽しんでたのかよ」
「まぁそれもあるが、お前の反応を知りたかったんだ」
「反応だぁ?」
桐葉はスプーンを咥えたまま、俺をじっと見つめる。困惑と若干の照れからか、気詰まりになって目を逸らした。音量は下がっていたがAVはつけっぱなし、照明は眩しすぎて雰囲気の欠片もない。女の喘ぎ声と、肉のぶつかる乾いた音だけが響いていた。
「さっき言ってたの、本気なのかよ」
ふと、桐葉が口を開く。
「さっき?」
「ほら、さっき、外で言ってたろ」
「あー……お前は俺のもんだって?」
桐葉は苛立ったように頭を掻き、大きく舌打ちをした。
「そうじゃねぇ。いやそれもあるけど、そっちじゃねぇ。てめえ、すっとぼけてんのか」
耳まで紅潮させてうつむく。その様子を見て、何を言いたいのか見当が付いた。
「……本気だぜ。当たり前だろ」
「……本気なら、もう一遍言ってみろや」
「なんでだよ。小っ恥ずかしい」
「いいから、言えよ。ちゃんと口説いてみろ」
桐葉は体を起こし、ベッドの上にきちんと正座する。きつく握りしめた手を膝に置いている。頑として動かない構えだ。強情な男だ。
「もう一遍言ったら、お前も本気で応えてくれるのか」
「…………お前次第だ」
一旦口籠ったが、紅潮した顔を隠さずに俺を真っ直ぐに見据えて言った。桐葉も照れているのだ。照れているのに、真摯に向き合おうとしてくれているのだ。それが嬉しくて、胸がいっぱいになる。甘酸っぱいのとは違うが、恋の感情に近づいたような気がした。
俺も本気で向き合わなければなるまい。ベッドの上に正座し、桐葉の手に自分の手をそっと重ねた。早鐘を打つ心臓の音しか聞こえない。耳が心臓に付いたみたいだ。既に一度告白しているのだからそう緊張しなくたっていいだろうと思うのに、理性でどうにかできる問題でもない。さっきは勢いで言ってしまっただけなので、むしろ今の方が緊張している。
「っ……」
口を開けたものの、変な空気が漏れるだけで言葉が続かない。どうしたらいいんだ。逃げ出したい。そういえば、俺ってばいつも告白される側の人間だったから、自分から告白する機会がなかったのだった。紛れもなく初体験だ。俺はこれから、桐葉に初体験を捧げてしまうのだ。
心を落ち着けたくてしきりに深呼吸をする。桐葉は神妙な面持ちで粘り強く待ってくれる。伏せられた長い睫毛がタンポポの綿毛みたいに寄る辺なくたゆたっていた。それをじっと見ていたら、不思議と自然に唇が動いた。
「……好きだ」
口にしてしまえば驚くほどあっさりしたものだ。心は全く凪いでいて、残るのは澄み渡るような透明感だけだった。この状態が自然だったのだ。あるべき場所へ戻ってきたような気がした。
「恋人じゃなきゃ嫌だ。俺と付き合っ――」
一息つく間もなく、桐葉に抱きつかれた。勢い余って後ろ向きに倒れ込む。マットレスが沈む。シーツに皺が寄る。
「おい、最後まで言わせろよ」
桐葉は何も言わず、肩をかすかに震わせながら、俺の胸に額を押し付けている。恥じらっているらしいことはわかるのに、肝心の表情が見えない。
「なぁ、返事は? 本気で応えてくれるんだろ?」
頭を撫で、髪に指を通した。返答は意外なものだった。
「……保留」
「うっそだろ!? 今この状況で!? 保留!?」
「……お前すぐキレるし、殴ったりすんだろ。治せよ」
「なんで今説教されてんの、俺? キレやすいの治せってのは赤石にも言われたけどさぁ、難しいじゃん。性分なんだもん。お前だってすぐ蹴ってくるくせに。足癖悪いの治した方がいいぜ」
「うるせぇ、ばーか、甲斐性なし」
「なんで急に罵られてんの、俺!? お前、ほんとにかわいくねぇ!」
せっかくかわいかったのに。否、憎まれ口を叩いていてもかわいい。素直ならもっとかわいいのに。
「……でも」
そよ風にすら掻き消されてしまいそうな声で桐葉が囁く。
「でもおれも、お前のことが……」
好きだ、と。聞こえたような、聞こえなかったような。
「もう一回言ってよ」
「……とりあえずセフレは全部切ってやるから安心しろよ」
「はぁあ? なんでそんなに偉そうなんだよ!」
桐葉は顔を綻ばせる。野中の花のように、ほんのり甘くてあどけない微笑みだった。どちらからともなく唇を合わせた。桐葉の唇は、さっき食べていたパフェのバニラアイスの味がした。
啄むだけの軽いキスを重ねる。もどかしくなったらしく桐葉が舌を伸ばすが、唇と前歯でシャットアウトしてしまう。むっとしたように鼻を鳴らしたのが聞こえた。でも俺は、しなやかな唇の優しい味を存分に楽しみたいのだ。何しろ一か月ぶりなのだから。
「っは、おい、いつまで……」
「だめ? 好きだろ」
唇を押し当てると桐葉は黙ってされるがままになる。下唇を挟んで甘噛みし、舌の先端を使ってくすぐる。唇を挟んだまま左右にスライドさせて感触を楽しんだ。桐葉も同じように俺の上唇を挟んで、ぷにぷにと甘噛みする。短い舌を出してちまちまくすぐる。焦れったいのに気持ちよくて、笑ってしまった。
舌先にちゅっと吸い付き、やんわり食む。チョコを溶かすような舌遣いで弄ぶ。薄目で桐葉の様子を窺うと、両目を瞑って苦しそうなのに一所懸命口を開けて快楽を貪っている。その様がまるでお乳を吸う仔猫みたいに健気で、胸にぐっときた。
いきなり口を大きく開いて、桐葉の口を覆った。唇も舌も一緒くたに俺の口の中だ。口紅を引くように舌で唇の縁をなぞる。おずおずと伸びてきた桐葉の舌を絡め取って擦り合わせた。ガクンと腰が振れる。息が上がって、鼻から抜ける声に色香を帯びる。
「ッ、ん……」
これほどまでにねっとりしたキスを交わすのは非常に稀である。ガキの頃はもちろん、大人になってからも、毎回忙しなく事に及んでいた。この先にさらに強烈な快楽が待っていることを知っているから、焦れてしまうのだ。
舌を差し入れて口内を探る。あえて一番好きなところを外し、歯肉や歯の裏側、舌の付け根に沿って撫でる。ここも十分気持ちいいはずだがやっぱりもどかしいらしく、俺の舌を捕らえて誘導しようとする。束の間舌でチャンバラをした後、無理やり突っ込んで上顎に触れた。執拗になぞると桐葉の腰が小さく跳ね、ゆっくりと唇が離れていった。
「大丈夫か?」
俺の肩にぐったりもたれて、必死に酸素を取り込んでいる。瞳がとろりと潤んでいた。
「もしかして、軽くイッた?」
「……キス、だけで……イくわけねぇだろ」
バスローブ越しに股間を掴んで確かめてみたが、勃起したままで射精はしていなかった。ただ、先走ったもののせいでバスローブまでしとどに濡れていた。いかんせん白地なので、恥ずかしい染みがくっきりと浮き出ている。
互いの位置を入れ替え、桐葉を仰向けに転がした。AVがつけっぱなしだったことに気づいて電源を落とし、眩しすぎる照明を絞った。真っ暗ではなく、近寄れば表情を確認できるくらいの仄かな明るさ。間接照明が淡く光ってムード作りに貢献してくれた。
改めて、俺の腕の中に収まる桐葉を見下ろす。バスローブがはだけて、慎ましやかな胸が覗いている。乳首はぎりぎり隠れているが、薄手の生地のせいかツンと尖っているのが丸わかりだった。開発したのが自分でないことは口惜しいが、しかしまぁよくもここまで育ったものだと感心する。
つんと尖った乳首を、掠めるようにそっと撫でる。もう一方も同様に触った後、桐葉の胸にかじりついて布越しに両乳を弄くった。円を描くように乳輪を捏ねると乳頭がますます固くなるので、その突き出た部分を爪の先で弾いたり引っ掻いたりする。刺激すればするほど、面白いくらい順調に隆起する。桐葉も順調に乱れていく。
「おっぱい、気持ちいの?」
「ぅ……るせぇ」
「いいんだろ? ビンビンに起っててかわいいよ。次、どうしてほしい? 口でする?」
「……っ、言わせんな、ばか」
「それとも直接触ろうか。服の上からじゃもどかしいよな?」
桐葉は恨めしげに俺を睨み、両腕で顔を覆った。
「……好きにしろ」
「じゃあ、そうする」
延々、服の上からカリカリと引っ掻き続けた。指の腹で押し潰しても、起き上がりこぼしのように幾度も復活し、起ち上がる。隆起していても弾力は失わない。女の乳首と大差ないと思う。早く口に含みたいけど、まだ我慢だ。
桐葉は躊躇いがちな声を漏らす。無意識だろうが、物欲しそうに腰がカクついている。腰が揺らめく度、俺の息子に桐葉自身が擦り付けられる。それが気持ちよくて、俺も自ら腰を押し付けてちんこを擦り合わせた。
「おい……っ、それ、いつまで……」
桐葉は悩ましげな眼差しでちらりとこちらの様子を窺う。
「好きにしろって言ったから」
「んぅ……も、意地張ってねぇで……」
「意地張ってんのはお前だろ。どうしてほしいか言ってみ?」
「お前こそ、ビンビンにおっ起ててるくせに、ッ、さっさと入れてぇんだろ」
「そりゃ入れてぇけど、お前がぐちゃぐちゃになってるところ好きだからさ。ずっと見てられるぜ」
ぎゅっと力任せにつねると喉を震わせて喘いだ。
「さっさと入れちゃっていいの? お前のかわいいとこ、もっといっぱい見たいんだけど?」
つねったまま、クリクリと転がした。
「ぅア゛! ぁ、わかった……ン、ちょくせつ、直接触れ……」
「そんだけでいいの? ベロでぬるぬるしたくないの?」
「んなの、てめえがやりてぇだけだろ」
「うん。舐めたい」
真顔で桐葉の目を見つめた。桐葉はぽかんと口を半開きにして俺を見つめ返す。
「舐めたいよ。全身舐めたい。俺、今日はとびきり大事に抱きたいんだ。いっぱいいっぱい大切にして、とろとろにしてやりたい。だからお前も素直になってくれよ」
桐葉は開いた口を引き結ぶと、枕に顔を埋めてしまった。
「き、急にそういうのやめろ……困る」
「だってお前がエロいから」
ぱっと胸元をめくって、乳を露出させた。ぽってりと膨らんだ乳首が、寒そうにふるりと震えた。いつも思うが、桐葉のそこは桜貝のようでかわいらしい。勃起すると赤みが増すのだが、それもまた官能的でたまらない。溜め息をついた。
「好き。かわいい」
遠慮なく口に含む。舌先で器用に突つき、下から上へべろりと舐め上げると、口の中でぷるるんと弾ける。キスをするみたいに唇で啄んだ後、前歯で挟んで優しく扱き、先端をちろちろとくすぐる。もう片方の乳首も手で愛撫する。
「ン、は……や、ぁ、あッ」
枕の下から荒い息遣いが聞こえる。桐葉の胸がどんどんせり上がり、快感を求めて淫らに揺れる。その動きに合わせてマットレスが沈む。俺は余計に煽られて、夢中でしゃぶった。飴玉を舐める要領で乳頭を舌に乗せ、たっぷりの唾液を絡めて様々な方向へ転がす。乳輪ごと強く吸いながら舌でなぶる。絶えず降ってくる声のせいか、乳首が本当に甘く感じた。
「あ、ア、まッ、て、だめ……ン、んん゛!」
「何がだめ? 気持ちいでしょ。こんなに固くしといて」
もう一方の胸にも同じように吸い付いた。さっきまで舐めていた方は手で摘まんだり弾いたりして愛撫する。唾液でぬるぬるに濡れている。見た目にも、てらてら光っていやらしかった。
「ぃ、やだ……んッ、はなせ……あぁッ! だめ、だめぇぇ……」
桐葉は弱々しく訴えたかと思うと息を詰め、ぶるりと腰を痙攣させた。数秒息を止めた後、徐々に弛緩した。肩で息をしていて苦しそうなので枕をどけてやる。
「……またイッた?」
涙やら涎やらでべしょべしょになった顔面が真っ赤に染まっていた。全力で走った後のように息を切らしている。
「ち、がッ……いまのは……」
「どう見てもイッてたよな。なに、お前乳首だけでイケんのかよ」
じわりと心に陰が差す。嘘だろ、まさか乳首だけで達してしまうなんて。ここまで開発されていたなんて。
俺の感情を読み取ったのかどうかは定かでないが、桐葉は俺の頭を胸に抱いて髪を撫ぜた。つむじに唇を寄せる。
「おまえの、……が……よすぎる、から……」
消え入りそうな声であった。実際よく聞き取れなかった。しかし、これしきのことで心の陰は癒される。今この瞬間、桐葉を抱いているのは紛れもなくこの俺だけなのだと思い知った。そして未来永劫、こいつを抱いていいのは俺だけだと誓う。
「はぁー、もう限界」
桐葉の膝を掴んで股を割った。わかってはいたがノーパンで、勃起したナニから破裂寸前の玉袋まで丸見えだった。精液がわずかしか出ていないから、さっきのは甘イキだったのだろうかと思う。凝視されたのが恥ずかしかったのか桐葉は足を閉じようとするが、俺の腕がそれを許さない。逆に大きく開かせた。
「何これ、ケツまで先走りが垂れちゃってるよ。ローション使ってないのにぬるぬるじゃん」
「もう、いいから……は、はやくしろ」
濡れた蕾を切なげにヒクつかせて哀願する。素直に求められると、逆に焦らしたくなってしまう。蟻の門渡りに舌を這わせて軽く叩いた。内側に前立腺があるとかないとかで、会陰部も立派な性感帯なのだ。刺激するほどにちんこから涎が溢れてきてアナルを濡らす。
「淫乱」
言葉で責めると蕾がクパクパ開いて悦ぶ。粘膜の赤が見え隠れするのが扇情的だった。昔から気づいていたけど、桐葉は若干マゾの気がある。
「まだ触ってないのに、びしょびしょに濡れてるぜ。そんなに気持ちい?」
「ッふ、クソ、いい気になってんじゃ……ぁア゛っ!」
下の口にキスをすると途端に憎まれ口が嬌声に変わる。
「あぅ、や、やだ……んなとこ、舐めんな……や、アッ、あぁん」
ここを口ですると嫌がるのは知っていた。以前やろうとして拒絶されたことがあり、俺も口での愛撫に情熱を抱いていたわけではなかったから、それ以来試みたことはない。でも今、唐突に口でしたくなったのである。濡れた粘膜がチェリー味のキャンディみたいでおいしそうだったから、なんていうしょうもない理由でだ。
膝裏をがっちり掴んで固定し、舌を尖らせてゆるりと侵入する。大量の唾液を送り込むが、そんなの必要ないくらい潤沢に湿っている。わざと派手な水音を立てて抜き挿しすると、桐葉は腰をくねらせながら嫌がった。
一応指を挿し入れてみるがすんなりと咥え込む。前戯は十分過ぎるほどしたし桐葉も十分乱れているしそろそろ頃合いだろうかと思って――それに俺も我慢の限界であったので、入れるぞと告げてから間を置かず一気に貫いた。
「ひッ――――」
指とは比較にならない圧倒的な質量を持つものに体内を蹂躙され、桐葉は全身を強張らせた。しかしそれとは対照的に、俺を迎え入れた場所は至極しなやかである。熟しすぎた果肉のようにどろどろに蕩けた内壁が纏わりつく。腰が痺れて砕けそうだった。
ゆるゆると抽送を始める。腰を引くとアナルが名残惜しそうに吸い付いてきて、押し込むと旨そうにしゃぶり付く。こいつのいいとこどこだっけ、などと考えていられなくなって、ひたすら自分の快楽を追った。
グチュグチュと音が鳴るほど乱暴に蜜壺を撹拌する。たぶん気づかないうちに前立腺を抉っている。いいところを擦ると桐葉の腹が波打つのでわかりやすい。
「ふ、っぐ……ア゛ぁッ! や、やだ、やめ……」
「ここ? ぐりぐりすんの、好き?」
「ぃ、やぁあ゛! ち、が……ぅあ、ア、んん」
「じゃあ、深いとこガンガン掘られるのがいいの?」
「ちが、んぅう゛……ア゛、あぁあ! くんな、おく、こないでぇえ」
要望に応じて、浅いところも深いところも執拗に責めてやった。前立腺擦られるのも奥突かれるのもどっちも好きだって、とっくの昔から知っている。桐葉は目を瞑って快楽を逃そうとしているが、腰はみっともなく跳ねている。だらしなく開いた口からは涎が垂れてしまっているし、艶めかしい声は途絶えることを知らない。
「なぁ、この一か月、オナニーした?」
「ふぁ、あ? おな……ンン、してな、してなぃい」
「だよな、お前、前もそう言って……俺はお前で抜いてたけどさ」
「おれで、アッ、ぬいた、の?」
「そーそー。お前のエッロい痴態、思い浮かべてさァ……でも、本物の方が百億倍興奮する」
きゅううう、とちんこを握りしめられた。かと思うと、律動に合わせて揺れていた桐葉のものからとぷりと白濁が溢れた。色は濃いが量は少なくて、また甘イキしたのだろうと思った。
「はは、またイッた。イキすぎじゃない? 溜まってたの」
からかってやると、桐葉は意外にも素直に首を振った。
「っき、きもちい、からぁ……すぐ、ッ、いっちゃう……」
ぼんやりとして焦点の定まらない目だ。脳みそも混乱を極めているのだろう。理性がどこか遠くへ飛んでいってしまっている風だった。そんな幼気な姿を前にして欲情しないわけがない。自然と喉が鳴り、口角が上がった。
「でも、そのわりにさ、精子の量少ないよな。もっといっぱい、びゅーびゅーしたくねぇ?」
そっとちんこを撫でると、今度は首を横に振る。
「やぁ……なか、中がいい……」
「なんでだよ。両方一緒にするの好きだろ? それとも、もう出ないの? オナニーはしてなかったけど、誰かに抜いてもらってたとか? だから少ししか出ないの?」
「ちがぅ、けど……」
達しすぎて辛いのだと訴える桐葉に構わず、前を扱きながら腰を打ち付けた。しつこく亀頭を責め、重ねて激しく突き上げる。嬌声が悲鳴に変わった。
「い、ぎィッ――――あ゛っ、やぁあ゛ッ! はげし、ア、だめぇえぇ」
「何がだめなんだよ。いいんだろ? おら、早くイケよ」
「も、もう、いっでぅ……イ゛ぃッ、てる、からぁあ゛!」
精液がわずかに零れているだけだ。扱くのを止めても「またいっちゃう」と泣き喚く。
「中で、イッてんのかよ」
「ぅ、あぁッ! も、やらぁあぁ! イッ、いくの、とまんな、ッ……」
射精の伴わない絶頂を既に何度も繰り返しているらしかった。そうでなければここまで乱れないはずだ。敏感すぎやしないかと心配になるが、久しぶりの行為だからだろうか。あるいは前戯に時間をかけたのが功を奏したか。それとも、他の理由があるのだろうか。
何度も達しているのに、アナルの締め付けは和らぐどころかますますきつくなっていく。肉襞が小刻みに痙攣して精液を搾り取ろうとする。正直言うと俺ももうイキそうなのだが、歯を食い縛って耐える。だって一回出すと賢者タイムが来ちゃうからさ。俺は桐葉みたいに甘イキも中イキもできないから。
「……なァ、桐葉。お前は、俺のものなのか?」
シーツを掴んで善がるばっかりで、答えてくれない。そりゃそうだ。もうわけわかんなくなっちゃってるんだもんな。俺ってば、大事なことを聞き出すタイミングをまた誤った。好きなら好きって言葉にしてほしいけど、素面の時に尋ねる勇気がない。
でも一応セフレは切ると言ってくれたし、そのうち聞けるかなぁなんて楽観的に考えつつ桐葉に目をやると、蕩けきった面差しでこちらを見つめていた。律動の度に声を上げ、必死に手を伸ばしてくる。その手を取って、指を絡めた。
「かわいいことすんね。なに、もう疲れちゃった?」
ううん、と首を振って苦しそうに喘ぎ、たどたどしく言葉を紡いだ。
「……もう、お前しか……いらない、から……」
脳天に雷を落とされたような衝撃だった。一筋の涙が流れ星みたいに煌めいていた。俺はうっとりと幸せを噛みしめながら、しっかり精を吐き出した。
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