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第26話 春雷②
夕食を外で済ませた後、ついでに軽くドライブした。飽きれるほど見慣れた町だと思っていたけど、注意深く見てみると昔とは所々変わっている。新しい道ができていたり、道幅が広くなっていたり、新しいコンビニができていたり、パチンコ店が新装開店していたり。
驚いたのは、中学校が改築されていたことだ。気になりすぎて、わざわざ駐車して見に行った。半世紀以上前に建てられたらしい味のあった校舎が、現代的で小洒落た建物に様変わりしていた。壁が白くなっている。かつては野球ボールとサッカーボールとテニスボールがぶつかり合っていた校庭も、広々したものに生まれ変わっていた。
「お前、知ってた?」
「詳しいことは知らん。前の道を通る時に見えるから、それだけだ」
しかし変わらないこともある。なぜか潰れない不思議な店と言われていたラーメン屋はいまだに潰れていないし、捕まったら最後と言われていた魔の信号はなかなか青に変わらない。この町から見る筑波山が一等美しく、今晩は満月と相まってより一層幻想的だ。月影が水面に揺らぐ。蛙の歌声が潮騒のように響き渡っている。
そして夜遅くになると、何といっても暴走族がうるさい。けたたましい爆音を掻き鳴らしながら一直線の国道を爆速で走り去り、その後をパトカーがサイレン鳴らして追いかける。俺がガキの頃から変わらない。もはや伝統芸能の域である。
「懐かしいな」
布団を半分だけ掛けて寝そべり、俺は言った。桐葉は縁側で煙草を……じゃない、チュッパチャプスを舐めている。
「飴なんか持ってきてたの?」
「さっきコンビニで買った」
久しぶりに二人でのんびり過ごしていると思う。風情があって良いものだ。雲の切れ間から射す満月の光が眩しい。外が真っ暗だから尚更だ。月に照らされて伸びた桐葉の影を見ていた。
「何が懐かしいんだ」
「地元が?」
「なんで疑問形なんだ」
何が懐かしいのか、自分でもよくわからなかった。この家に桐葉と二人で戻ってきたことか? あるいはこの田舎の空気そのものか。
「俺、お前とずうっと大昔から一緒にいるような気がしてるけどさ、実際一緒にいたのって二年もないんだよな。中三の今頃会って、別れて、んで、去年の今頃また会ったわけだろ?」
「当たり前のことを言うなよ」
「いや、でもさ、もっともっと長い時間を過ごした気がするんだよ。中三の一年間は、俺にとっての永遠なんだと思う」
「意味のわからんポエムを詠むな」
「ポエムじゃねぇし! そのくらい濃密だったってこと!」
桐葉はかすかに笑みを零した。
「おれにとっても、中三の一年間は永遠だぜ」
「マジ!?」
「何しろ十四で処女を失ったからな」
同じことを感じていたのかと期待した俺が悪かった。感動を返してほしい。
「そーいうのやめろって。俺が悪いことしたみたいじゃん」
「実際悪いことだろ。ほとんど強姦だったぞ」
「だけど最終的に和姦だったろ? キスねだってきたりしてさ。かわいかったよな、お前」
「ありゃ騙されたんだ。詐欺みてぇなもんだ」
「素直じゃねぇの。昔はもう少しかわいげがあったのに」
「かわいい言うな」
桐葉が振り向くが、表情が影になって見えない。口調から察するに、むくれているのだと思う。
「でもほんとにかわいかったよな、あの頃のお前。こじんまりしてて手足ばっかり細長くて、色白で女の子みたいだった。艶々の髪も綺麗だったし。まぁ今でもかわいいことには変わりねぇけどさ」
俺はここぞとばかりに畳みかける。
「あの頃は俺もまだガキだったからよくわかってなかったけど、今思えば国宝級じゃない? 俺以外のやつに目ぇ付けられなくて本当よかったな」
「お前みたいな物好きがそうそういてたまるか」
「俺がおかしいみたいに言うなよ。赤石だってお前のこと美人だって……言って……」
桐葉はおもむろに立ち上がったかと思うと、俺の腹にまたがった。舐め終わったキャンディの棒を舐ってゴミ袋へ放る。
「するか?」
いきなり何を思ったか、挑発的な態度でこちらを見下ろしてくる。腰をくねらせて尻を擦り付ける。
「珍しいこともあるもんだ。明日は雪でも降るのか?」
「しないのかよ」
丸々三か月は体を重ねていない。桐葉の体を思えば今日はまだ我慢すべきかもしれないけど、あらぬところを刺激されては我慢できるものもできなくなる。溜まっていたせいもあり、容易く元気になってしまう。
「はは、起ってきた。すぐ起つよな」
「お前ほんと……したいならしたいって言えよ」
俺の上で得意気に腰を振る姿はまさに絶景である。近年稀に見る色気だ。スウェット越しに互いの熱が触れ合う。もどかしくなって俺も腰を揺すると、桐葉は咎めるような眼差しを向ける。
「おい、待て」
「待てねぇ。お前だって起ってんじゃん。もっとよくしてやるから」
くっきりと形を主張し始めた雄蕊を服の上から握ると、嫌がって腰を引く。
「こら、逃げんな」
「久々だから慣れねぇんだよ……」
「自分から乗っかってきたくせに」
「それは」
「いいからほら、脱いじゃえよ」
下半身だけ服を脱いだ。足の付け根に桐葉の尻が当たって温かい。
「昔はつるつるしてたのに、いつのまに毛なんか生えちゃったんだろうな」
溜め息まじりに呟いて、兆し始めたモノを撫でる。自分のモノもまとめて握ってしまう。直接触られるのは刺激が強かったのか、桐葉は腰を震わせた。
「っ……手、はなせよ」
「自分でなすり付けてるくせに何言ってんだよ。腰揺れてんぞ」
「ちがっ……ん」
「違くねぇだろ。エロくてかわいい」
俺の腹に手を置いて体を支えながら熱心に快楽を追う。俺の手と俺のちんこを使ってオナニーしている。尻の谷間にそっと指を這わせると、桐葉が小さく声を上げた。
「あっん、まだ」
「入れねぇから安心しろって。入口触るだけ」
「や、あ」
後孔に触れる右手から逃げようと腰を進めるけど、そうすると待ち構えている左手に竿を抜かれる形になり、腰を引けばまた後孔に指が入りそうになる。どちらへ転んでも逃げられない板挟み状態である。
「気持ちい? 一回イッとく?」
「やっ、いやだ……」
「なんで。イキたいんでしょ」
「ち、が……」
次第次第に追い詰められて、口調が幼くなっていく。眦がとろんと蕩けていく。今も昔も変わらず、この時の桐葉が俺はたまらなく好きだ。
「何が違うんだよ。俺の手、好きだろ」
「手じゃなくて、中で……お前のでイキたい」
既に崖っぷちまで追い詰められているくせに、さらに自らを追い込もうとする。しかも無自覚で。こういうところも変わっていない。
「お前ね、そんなん言われたら優しくできなくなんだろ」
「お前が優しかったことなんてあったかよ」
俺の上にまたがったまま、カバンからボトルを取り出す。覚束ない手付きでローションを掌にぶちまけ、尻に塗りたくった。
「なんか今日、積極的じゃない? 嬉しい……」
「うるせ……てめえは黙ってチンポおっ起ててろ」
「ローション用意してたの知らなかったし。もしかして昨日も期待してたとか?」
「期待してたのは……んっ、てめえの方だろ」
呼吸を乱しながら、順調に後ろを解していく。気持ちよさそうに鼻を鳴らし、胸を反らせる。
「いいか。今日はおれがするから……お前は余計なことすんなよ」
「えー、俺も触りたいんだけど」
ついと内腿を撫でると手を払われた。
「……お前の前戯は、まだるっこいから……」
「そんなことねぇだろ」
「そんなことある。去年、付き合ってすぐくらい……色んなとこへ連れ回して、セックスしたろ」
「遊園地とか行ったやつのこと? ありゃただのデートだろ」
「でぇと……?」
全く想定外だとでも言うように、きょとんと首を傾げる。
「なんだ……回りくどい前戯じゃなかったのか」
「いやなんでそうなるんだよ! 普通にデートだし、回りくどい前戯なんかしねぇって。んだよ、お前、ああいうの経験ねぇのか?」
「は、おれはてっきり、セックスのための戯れか何かかと……出先でもお構いなしに、お前が盛りまくるから……」
「盛ってたのはお前の方だろーが。お前が目ン玉ハートにして誘ってくるから、俺もついつい手が出ちゃうんじゃん!」
後孔の入口付近を慣らしていた桐葉の手を掴み、ぐいっと押し込んだ。尻全体がローションでぬめぬめしている。桐葉はカッと目を剥き、息を呑んだ。
「……ッ、おい、余計なことすんなって」
「お前の前戯だってまだるっこいじゃねぇか。さっさと準備しろよ、俺だって我慢してんのに」
「! ひゃ、ア、だめ」
「喘いでねぇで、自分でいいとこ探して、ぐりぐりして」
人差し指に中指を添えさせて、抜き差しするのを手伝ってやる。俺の指は中まで入らない。あくまでも、桐葉が自分で自分を慰めているのである。
「前立腺あったか? お腹ンとこ、膨らんでるやつだぞ。わかるか?」
「んぅ……くそ、ばかにすんな」
「だって、普段オナニーしねぇんだろ? あ、ケツでするやつはアナニーって言うんだっけ? どっちにしろ慣れないことはするもんじゃないぜ」
桐葉は恨めしげにこちらを睨みながら、しかしムキになって前立腺を探る。俺は暇になった左手をスウェットの下から滑り込ませた。滑らかな肌、薄い脇腹を辿り、快楽を主張する胸の突起を摘まむと、突如大きく体が揺れた。桐葉は膝をすり合わせて、後ろを弄る手は止まっている。
「どうした。慣らし終わったか?」
「む、むりだ、こんなの……」
「いいとこ見つけたんだろ? もっとぐりぐりして解さないと、俺のちんこ入らねぇよ」
「もう、やめ……アッ、や、いやだ!」
桐葉の手首を掴んで、ぐちゃぐちゃと音を立てながら無理やり中を掻き混ぜさせる。口では否定しながらも、桐葉の指先はしっかりと前立腺を捉えているようだった。
「すぎ……すぎ、もと……手、あぅ、手ぇ、とめて」
「お前が自分で動かしてんだろ」
「ちがッ……ふ、ぅあ……おまえの、せい、で」
桐葉は恍惚とした表情で天井を見上げる。指を動かしてアナルを弄りながら、腰を動かしてちんこも刺激し、俺の左手により乳首からも快感を得ている。
「あ゛ーッ、あ、ア、やば、ひぁ、やばぃ……ンん、もういく、イ、ぐ、イッぢゃ――」
切羽詰まった声を上げる。水中でもがくように俺の腹を掻く。内腿がぎゅっと縮こまる。陰茎がぶるぶる震える。鈴口が決壊する寸前を見計らって、俺は桐葉の手を引っこ抜いた。快感の頂点を目前にして突然引きずり下ろされた桐葉は、目を白黒させて俺を見る。なんで、どうして、あとちょっとでイケたのに、と疑問符を浮かべている。
「さっき、俺のちんこでイキたいって言ってたくせに、オナってイッたら承知しねーぞ」
上体を起こして服を脱ぐ。桐葉の服も、万歳させて脱がしてしまった。仄かな月明かりに真っ白な肢体が濡れる。ぷっくり尖った乳首も浅く窪んだへそも、全てが俺の眼前にある。
桐葉の左手首に、見覚えのある紐が結んであるのが目に入った。絹色をベースに、色付きの細い糸が編み込んである。そうだ、初詣の時に買ったお守りである。
「お前これ、大事に持ってたんだな。存在も忘れてるようなふりしてるくせに」
「ふ、ぁ? あ、ちが、これは……」
ぼんやりと視線を彷徨わせていた桐葉は慌てて手首を隠す。たまたまだとか何とか言って外そうとするので、俺はやんわりと制した。
「なんでよ。いいじゃん。着けたまましよ」
「た、たまたまだからな。普段は――」
「普段はスーツの内ポケットに仕舞ってんだろ? 知ってるぜ」
ぶわっと頬を火照らせる。暗がりでもわかるほどに真っ赤だ。
「てめ、気づいて……」
「一緒に住んでるんだもん、当たり前だろ。でもミサンガにして持ち歩いてるなんてマメだよな。昔からそういうとこあるよな、お前は」
桐葉は駄々をこねる子供みたいに両手を振り上げたが、俺は難なく受け止める。
「んなことより、もう入っていい? そろそろ限界なんですけど」
亀頭を使って後ろの窄まりにキスをした。待ち切れないと下腹部が疼く。
「ま、まて、おれがするって……」
「待てねぇ。ほら、もう先っちょ入ってる。わかる?」
「や、ぁ、あ! だめ、いまだめッ」
細い腰をがっちり掴んで、ずぷりと一息に貫いた。と同時に桐葉の体が強張り、てっぺんからとろとろと粘液が零れる。思わず、にやりと口角がつり上がった。
「うそ、入れただけで?」
「ッ……だから……やだって」
羞恥からか、桐葉はうっすらと涙を浮かべている。
「感じやすくてかわいーな」
「そ、そのかわいいっての、やめろ」
「でもかわいいって言われるの好きだろ。後ろ締まるし。初めてした時もそうだったよな」
「ン……てきとーこいてんじゃねぇ……」
体を起こしているのすらしんどいという風に俺の胸元に縋る。力が抜けて、そのまま倒れ込みそうである。
「おいおい、本番はこれからだろーが。騎乗位なんだから、お前が動いてくんないと」
もう疲れたと桐葉が目で訴えるが、そんなものは無視である。
「今日はおれがするからって、自分で言ってたろ。してくんねぇの。自分一人だけ出しやがってよぉ」
「お、お前が、余計なことするから」
「もたもたしてっから手伝ってやっただけだろ」
桐葉は悔しそうに唇を噛みしめる。しかし元来負けず嫌いなもんだから、当初の自身の宣言通り、拙いながらも腰を動かし始めた。俺の膨らんだ陰嚢を尻肉で包むようにして、ゆるゆると前後に腰を揺する。ベリーダンサーのように華麗に、とはいかないが、そのぎこちなさが逆に燃える。
「ん、んっ……ふ、うぅ」
堪えるように固く目を瞑って、不器用ながらもひたすらに腰をくねらす。円を描くようにグラインドさせる度、くねくねと腰が蛇行する。射精するには少々刺激が足りないのだが、視覚から得られる快感が強いので満更悪くはない。
「ちょっとぉ、そんな生っちょろい動きじゃ、出せるもんも出せないんだけど? もっと本腰入れてやってくれる?」
「やってる、だろ」
「お前こんなんでイケるの? ちゃんと気持ちいとこ擦ってるか? 前立腺の場所は覚えたんだよな?」
「ッるせぇ、いちいち――ぅあ゛!?」
腹の上でぴょこぴょこ振れていたちんこを抜いてやる。ぐっしょり濡れた亀頭を触り、カリ首の段差をなぞり、裏筋をくすぐる。それだけであられもない声を上げ、妖艶に腰を回す。
「騎乗位って、思ってたよりいいかもな。楽だし。ちんこ触りやすいし。顔もよく見えるし。中坊ン頃もやってもらえばよかったわ。昔はバックばっかりだったからなァ……」
女とする時、騎乗位の醍醐味と言えば揺れる乳房であろうが、男とする時の醍醐味は揺れる陰茎だったのだ。初めて知った。
「でも俺、バック好きなんだよね。お前も好きだろ? 獣みたいに犯されるの」
「んん゛、やめ、手ぇはなせ……」
ガクンと上体を反らし、背後に手を付く。膝立ちからM字開脚へと姿勢を変え、結合部をまざまざと見せつけてくる。禍々しいくらいに赤黒い肉棒が、桐葉の薄い腹を穿つ。あの小さな菊の門に、よくもずっぽり咥え込めるものだと感心してしまう。
「その恰好、恥ずかしくない? 入ってるとこ丸見えですげぇエロいよ」
「あ、ぁ、や、みるな」
「お前が見せてくるんじゃん。なに、我慢できないくらい気持ちい? 腰止まんないの? 中イキできるくせに、ちんこ弄られるのも好きだよな、お前」
「やぁ、ア、も、わかんね……すぎもと、すぎもと」
腰の動きが激しくなる。本能のままに、貪るように腰を振る。手の中にある雄蕊が小刻みに震える。アナルが精を搾り取ろうと蠢く。
だが、俺はまだ絶頂を許さない。達する直前いきなり腰を引き、中のモノを抜去した。桐葉はだらしなく発情しきった表情で俺を見る。溜まりに溜まった熱が放出されず、体内でくすぶり続けているのだろう。発情期の雌猫はこういう風に雄を誘うのだろうなと思わせる風貌である。
桐葉を仰向けに倒して、正常位の体勢になった。桐葉は背中を布団に預けながら、俺の首に腕を回して引き寄せる。耳をくすぐる吐息すら、火傷しそうなほど熱を持っている。急かすように尻を押し付けてくる。
「ぁ、あん、も、はやく……」
「ほんと淫乱。泣いちゃうくらい、俺のちんこ好き?」
「す……すき……だから、はやく」
「俺のことは?」
つくづく、俺はズルい男だ。このタイミングでこんなことを尋ねるなんて。桐葉は不思議そうに目を瞬かせている。
「好きって言ってくれたことねぇじゃん。聞きたいなぁって、思って」
だからってこんな時に尋ねなくてもいいだろ、と桐葉も思っているかもしれない。素面の時に言わせりゃいいだろ、と思っているかもしれない。でもまだ一回しかイッていないから、わりと冷静に判断できるのではないか、などと思わなくもない。
というかそもそも、これは俺にとって死活問題なのだ。付き合い始めて半年も経つのに、一回もその言葉を聞いていない。この手の質問も幾度となくしてきたのだが、キスではぐらかされるのがオチであった。一個前の質問に素直に答えてくれたから、勝利の確率は五分五分といったところか。しかし正直、今回もキスではぐらかされる予感がする。
「そ、んなの……」
どうでもいいから早くイカせてほしいと涙目で訴える。俺の首に腕を巻き付けたまま顔を近づけてキスを迫ってくる。身を引いてキスをかわすと、切なげに唇を尖らす。
「俺はお前が好きだ。今日も昨日も一昨日も好きだったし、明日も明後日もずっと好きだ。お前は? どうなんだよ」
膝裏を持って押さえ付け、亀頭をアナルに塗り付けながら問う。ローションと先走り汁とがどろどろに混ざり合い、うっかりすればすぐさま入ってしまいそうだったが、これを我慢して問うているのである。他人から見れば大層間抜けな構図であろうが、俺本人は真剣だ。
「い……言わなきゃわかんねぇのかよ、このタコ」
「おまっ、なんでそーゆーこと言うかなぁ。俺だって傷付くんだぞ。ほら、素直に言わないと入れてやんねぇぞ」
「やぅ……い、言わなくてもわかれよ……こんな、こんなこと」
好きじゃなきゃしない。顔を覆い隠し、掠れた声で囁いた。
「え……え、じゃあ、好きだからこんなことしてるの?」
「そう言ったろうが! アホかてめえは! 国語のテスト零点かよ!」
桐葉は耳まで真っ赤に染めて噛み付く。
「き、キレるなよ。だってお前、好きじゃなくてもセックスできるタイプかと」
「ひとをビッチ呼ばわりするな! おれはそんな安い男じゃねぇ」
「それってやっぱり金もらえばヤるってことじゃん! ある種のビッチじゃん!」
「お前とはいつもタダでやってんだろ! いちいち恥ずかしいこと言わすな、この馬鹿」
「ば、馬鹿って……お前ほんとかわいくねぇ」
でも、ずっと引っ掛かっていた胸のつかえが取れた気がする。すかっと清々しい気分だった。ほしかった言葉とはちょっと違うけど、これくらいの方がむしろ俺たちらしいのかもしれない。憎まれ口の応酬にすんなり紛れ込む睦言が甘美だ。
約束通り、素直になったご褒美をあげる。先端をほんのわずかに挿し入れると、桐葉の踵が俺の背中を蹴って催促する。
「大人になって足癖悪くなったよな。昔は足より手が出る派じゃなかった?」
「うるせ、も、はやくしろ、アホ」
「口もめちゃくちゃ悪ぃ。昔もこんなんだったっけ」
じっくり時間をかけ、根元まで埋め込んだ。奥に届いた瞬間、桐葉は感じ入った溜め息を漏らす。唇を乞われたのでそっと重ねる。始めは唇を濡らすだけ、徐々に深く潜り、舌を絡めていく。自然と息が上がる。
今まで耐えて溜め込んでいた分、我武者羅に腰をぶつけた。長いストロークで奥を突き、戻ってきて浅いところを擦り、勢いよく奥まで突き上げる。バックが好きって言ったけど正常位もかなり良い。顔がよく見えるしキスしやすいからだ。桐葉が、シーツでなく俺にしがみついてくれるのも良い。
中はしっとりと柔らかく、ぐちゃぐちゃにぬかるんでいて、人肌よりもうんと熱くて、俺はまたコンドームを着け忘れていたことを思い出した。
「なぁ、おい、なんでローション用意したのにゴムはねぇんだよ。中出しオッケーってこと?」
「あ、あぁ? ゴム、なんて……んぁ、いつも、つけてね、ッ……だろ」
「そりゃ生でする方が気持ちいもん。でもお前、ゴムしないのはクズだって、前言ってなかったっけ」
「は、も、おまえとしかしねぇんだから、ッ、いまさらどうだって……ふぁ゛!? ア、おい、んッ、は、はげし、やめッ……」
こんなかわいいことを言われて、興奮しないわけがない。ちんこが一回り大きく膨らんだ。桐葉を激しく揺さぶりながら欲望を叩きつける。
「ふは、コンドームっつうと、昔を思い出すな」
初めての時はゴムを用意してたのに着け忘れて中出ししたけど、以降もなんだかんだでゴムを着けずに生ハメセックスをしていた。今思えば不健全極まりないが、俺は当然生でするのが気持ちよかったし、桐葉も何も言わなかったのでそのままになっていた。
ある時、学校のトイレでコンドームが見つかったと騒ぎになったことがあった。先生方はご立腹であったろうが、生徒たちは大喜びである。男子どもがふざけて封を切り、精液溜まりに牛乳を流し込んで遊んでいた。
無垢だった桐葉はコンドームの何たるかを知らず、牛乳を入れることの何が面白いのかもわかっていなかった。おそらく教科書通りの性知識しか持ち合わせていなかったのだ。俺が諸々教えてやったら、驚いて目を丸くしていた。それから、どうして自分とする時はゴムをしないのだと俺に詰め寄った。
「男同士は妊娠しないからしなくていいんだって嘘教えたら、簡単に納得してくれたよな。あの頃のお前ってばほんとに純粋で……」
すると桐葉はむっと眉をしかめ、チュッと唇に吸い付く。じとりとこちらを見つめる。
「……昔の話ばっかりするんじゃねぇ。今お前が抱いてるのは誰だ」
「っ……!」
いつだってお前しか見てねぇよ! と声にならない叫びを上げる。言葉にする代わりに腰を振った。乱暴に肉襞を擦り上げ、蜜壺を掻き混ぜる。噴き出た汗が蒸発するほど熱気が高まる。桐葉の艶めかしい喘ぎ声のせいで鼓膜まで蕩けそうになる。肉体が溶け合って一つになる。
「や、ぁ、あ゛! それだめ、らめ! も、くる、くる、ぎぢゃう゛」
「メスイキすんの? ……いいよ、イケよ」
「ん゛、あッ!? あ、や、きもちぃ、やだ、やぁあ゛!」
「やなのかいいのか、どっちかにしろって……わがままだな」
目の焦点が定まらない締まりのない面差しだが、後孔はしつこいほどにきつく締め付けてくる。
「ひ、あ゛ッ! もっと……んん、もっとぉ」
桐葉が背中を引っ掻いて唇をねだる。緩みきった口の端から涎が垂れている。それを舌先ですくい取り、貪るようにキスをした。いやらしい水音を響かせながら抽送を繰り返す。
「ン、んぅう゛! ぃや゛、あ゛ッ! らめぇ、も、いく、いぐ、イッぢゃ――――ッ!!」
陸に上げられた魚のようにビグビグ跳ねる細腰を夢中で押さえ付け、俺も果てた。結局中で出してしまったが、種を迎え入れた体内は泣いて悦んでいる。こう何度も中に出していては、いつか本当に孕んでしまうのではないかと思われた。
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