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第1話
私は晴れの日が嫌いだった。
昼は人目を避けるように家にとじこもり、ひたすら戯曲を書き続けた。
私の戯曲は人気らしく、贔屓の劇団がいくつか取り上げてくれている。
たまには見に来いと言われるが、夜にしか活動できない上、出不精な私。チケットは送られてくるが、見に行く気にはならなかった。
晴れの日は人が多いし、何より陽の光がつらい。
原稿を取りに来た劇団の団長が「今夜、君の劇の初日だよ。迎えに来るから来なさい」とでっぷり肥えた腹を抱えながら唐突に誘ってきた。
「え、僕は……」
「いいから来なさい。主役のジョアンも君に会いたがってる」
有無を言わせない雰囲気だったので、「分かりました」と返事をした。
夜、迎えの馬車に乗り、劇場に足を踏み入れた。久々のスーツを着て、髪を整え、香水を振りかけた。
……少し香水を付けすぎたかもしれない。
貴族がパトロンについているからか豪華な劇場。
私は戯曲家だが、あまり劇を見た事がない。
そういう話をすると、冗談だろうと鼻で笑われるが、本当のことだ。
昔から太陽のもとを歩くのが嫌いだったので、夜、出歩いて劇場を回るのが趣味だった。
しかし、その趣味も歳を重ねるごとに億劫になり、屋敷で過ごすことが多くなった。
「特等席を用意したぞ」
団長はここに座れと、赤いビロードのシートをポンポンと叩いた。
そこは舞台を真正面から観劇することができるボックス席。
「この席、高いんじゃないですか?」
「これくらい良い席じゃないと、来ないだろう」
はははと団長が豪快に笑っていると、開演のブザーが鳴った。
このブザーがなると、胸が高鳴る。
やはり、私は劇が好きなんだなと改めて感じる。
物語は、白鳥の湖をモチーフにした恋物語。
黒いドレスを着た踊り子たちの中から、純白のドレスの歌姫が現れる。
眩いスポットライトを浴びた美しい少女。
ブロンドの髪に、海のように青い瞳。
細く長い四肢は、舞台の上で伸びやかに、軽やかに自由に舞う。
「どうして、私は白鳥なの?私も皆と同じが良かった」
劇場に響き渡る透明感のある声は、観客を圧倒間に魅了する。
それはこの私も例外ではない。
くるくると回るあの少女の青い瞳が一瞬だけ、私と目が合ったような気がする。
空っぽだったグラスに、甘いジュースが注がれ、満たされる。
萎んだ花は蘇り、青い風が吹き抜ける。
私の書く全ての物語を彼女に捧げたい。
スポットライトを浴びた天使は舞台の上で微笑み続けた。
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