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後日談
深紅の遮光カーテンは一日中、閉じられている。
窓辺に膝を抱えて、泣いているブロンドの少年は、常に悲しみを抱えていた。
「ジョアン」
声をかけられると、びくりと体が震える。
「また泣いているのかい?」
「だって……」
「花嫁がそんなに泣いていてはいけないよ。さぁ、笑って」
この屋敷の持ち主であるエドワードはジョアンの肩に触れようとすると、何かの違和感を持った。
「ジョアン、顔を見せなさい」
「嫌です……」
「『ジョアン、顔を見せるんだ』」
再度同じ言葉を発すると、ジョアンは抵抗しながらも、あやつり人形の糸が付いたように顔を上に向けられる。
美しい白磁の顔は、右側が焼け爛れている。
「また外に出たのか。吸血鬼が太陽の下に出ると焼けて灰になると、初めの頃に説明しただろう。……じっとしていなさい」
「……っ!嫌、やめて!!」
抵抗しようと両手で顔を覆おうとすると、エドワードの強い力で両手を窓に縫い付けられる。
爛れた頬をエドワードはぺろぺろと舐める。
すると、しゅう……という小さな音を立てながら、爛れていた部分はつるりとした白磁の肌に戻った。
「……化け物」
ジョアンは震えながら、エドワードを睨む。
「怒った君も美しい。それに君も同じ化け物じゃないか」
「僕は、化け物じゃないっ!!」
「まだ吸血鬼としては幼いがね。『口を開けなさい』」
エドワードの言葉の通りに口を開けると、エドワードはジョアンの八重歯が鋭く尖っていることを確認した。
「うん、順調に吸血鬼としての歯が育っているね。この1ヶ月、何も食べてないだろう?大好物のチェリーパイを用意したよ。あそこのパブ、潰れてしまったみたいでね。レシピを手に入れるのに苦労したんだ」
「食べたくない……」
「血色も悪い。食べ物から栄養は取れないけど、血液はちゃんと取らないとね。死んでしまうよ?」
「死んだっていい!!僕をどこまで苦しめるの!?」
涙を浮かべながら、扉の方へ走り、部屋を飛び出す。
しかし、空腹で足がもつれて、倒れてしまった。
「苦しめてないかいないさ。永遠の愛を誓い合った夫婦だろう?」
「あれは……貴方が言わせたんだ……僕は誓ってなんかいない!」
吸血鬼にされた人間は、吸血鬼にした吸血鬼と血の縁を結ばれ、永遠に従わなければならない。
そういう契約となっている。
ジョアンはエドワードの言葉を拒否することは出来ないのだ。
「ジョアン、私だって好きで君を言葉で縛っている訳では無いんだ。君が素直になってくれれば、縛る必要は無い」
「お願いだがら、元の人間に戻して……!」
「それは出来ない。それに今、君を人間に戻したら、灰になってしまう」
「どうして、灰になるの……?」
教会の鐘がなる。
どうやら夕方になったらしい。
エドワードが遮光カーテンを細く開けたので、そっとジョアンが覗くと、見慣れていた街並みが、どこかよその国に来たように様変わりしていた。
「どういうこと……?」
「君が私に血を吸われてから、もう百年の月日が過ぎた。君を人間に戻したら、この百年の時間が君の体の時間を一気に進め、存在を消してしまう」
ポロリとまた一筋涙が流れた。
人間に戻ったところで、帰る場所もなければ、存在すら消えてしまうのだ。
「さぁ、食事の時間だ、ジョアン。『ベッドに横になりなさい』」
ジョアンは糸をつけられた人形のように、ベッドの方へ歩き、横になる。
エドワードはナイフで自分の右の親指を切る。
赤い血が滴り落ちる。
その血を見た途端、ジョアンの喉は急激に乾く。
(欲しい……欲しい……血が、欲しい……)
口からは涎が垂れ、瞳孔が開いている。
「空腹で辛かっただろう……。どんなに君が私を嫌いでも、私は君を愛しているよ。『さぁ、口を開きなさい 』」
ジョアンは大きく口を開き、舌を突き出した。
その柔らかな舌の上に、エドワードは血を垂らすと、喉の渇きが嘘のように満たされる。
「もっと……もっと、欲しい……」
一滴では、足らない。
血を渇望し、理性を失ったジョアンはエドワードの指に吸い付いた。
赤子が母親の乳に吸い付くように、ちゅうちゅうと音を立てながら、血を吸った。
空腹を満たし、ジョアンは指から唇を離す。
ふーふーと獣のような息遣いをしながら、ベッドへ倒れ込んだ。
上気した桃色の肌が白いワイシャツの間がから見える。
エドワードはジョアンの服を全ての脱がせ、首筋に噛みついた。
じくじくとした痛みは、いつしか快感を伴い、恐怖と痛みから快感が勝るようになってしまう。
「あ……っやぁ……!……んんっ!!」
吸われてしまった快感に、陰茎の先から白濁した液体が吹き出る。
勢いよく出たどろりとした液体は、エドワードの服を汚した。
「また気を遣ってしまったのか。なんていやらしい体なんだ。他の吸血鬼でも、こんなに気を遣ったりはしないよ」
エドワードは弛緩したジョアンの体をうつ伏せにし、白い尻臀の間の蕾をグリグリと弄る。
「ふ……っ、あぁ……そんなところ……やめて……っ」
少しずつ正気に戻り始めたジョアンはベッドから這い出ようとするも、エドワードに体を押さえつけられてしまう。
「『ジョアン、お尻を私に突き出しなさい。そのまま動いてはいけない』」
言葉の呪 により、ジョアンはエドワードに自らの臀部を突き出した。
「やだ……こんな格好……」
犬のような格好が、さらにジョアンの羞恥を煽る。
「ひくひくと涎を垂らして、私を待ちわびているようだ。解してあげよう 」
ベッドサイドテーブルから、小瓶を取り出し、蜂蜜色のとろりとした液体を指にとると、ジョアンの蕾に塗り込んだ。
「ふあぁっ!エドワード……!やめて……っいやぁ……」
水音が部屋中に響く。
蕾に入れた指をエドワードが抜き差しする度に、肌が粟立ち、ジョアンの口からは艶めいた声が漏れる。
エドワードは自分のズボンと下着を下ろし、勃起した陰茎をジョアンの尻臀に擦り付けた。
「分かるか?ジョアン……私のモノもこんなに大きくなってしまったよ。想像してごらん、これを入れられたら、ジョアンはどうなってしまうのかな?」
自分よりも遥かに大きいモノを、自分の蕾に入れられる様を想像する。
以前の情事も両手を拘束された状態でのまぐわいだった。
痛いという感覚よりも、中を擦られる快感で自分の頭がバカになってしまいそうだった。
(また、あれを感じることが出来るの……?)
嫌がりながらも、心の中ではあの快感を欲している自分がいることに羞恥心を感じる。
「さぁ、入れるよ」
さっきの潤滑油のおかげで、難なく入ったモノは、ジョアンの奥まで一気に貫いた。
その衝撃でびゅるりとまた子種を吹いてしまう。
その痴態にエドワードは心が満たされるようだった。
もう、言葉の呪は使っていない。
それでも、快感に流されたジョアンの陰茎は壊れたように、奥を突くたびに子種を吐き出している。
「ジョアン……っ、君はベッドを妊娠させる気か?!」
吐き出された精液でドロドロになったシーツ。
その汚れたシーツにさえ、エドワードは興奮した。
そして、さらに怒張し、ジョアンの蕾を犯し尽くした。
「エドワード……っやぁ……!もう、やめてぇ……!!」
エドワードは獣のように、ジョアンの首筋に噛みついた。
その瞬間、エドワードはジョアンの中に熱く、どろりとした精液を流し込んだ。
ジョアンは噛み付かれた快感と奥に出された快感の板挟み状態で、気を失ってしまった。
精液は出し尽くしてしまったらしく、ちょろちょろと透明な液体が漏れ出てきた。
どうやら失禁してしまったらしい。
(……シーツは捨てた方が良さそうだな)
エドワードはジョアンを抱きかかえ、別の部屋へ移動した。
ベッドへジョアンを寝転ばせる。
「お風呂を沸かさないと」
エドワードは湯船に湯を張る。
いつか、ジョアンが自分を受け入れてくれる時があれば、また自分の戯曲を歌ってくれるだろうか。
ふと、そんなことを思った。
一度、言葉の呪を使って、ジョアンに歌を歌わせてみた。
嫌がりながら泣いて、自分の戯曲を歌っていたが、あの舞台で見た時のような高揚感は起きなかった。
あれは、心の底からジョアンが楽しまなければいけないことなのだと思った。
すまないとは思っている。けれど、これしか考えが浮かばなかった。
初めて自分が吸血鬼で良かったと思った。
初めて愛する人を吸血鬼にすることができた。
それが例え、無理矢理でも。
嫌がられても。
「ジョアン、私の全てを君を捧げるよ」
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