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第3話
パブを出て、家路に着く。
ジョアンは店の雰囲気に酔ったのか、足取りが覚束無い。
「ジョアン、大丈夫か?」
「ごめんなさい……先生、少し、人酔いしてしまったみたいで……」
「あそこで休もうか」
公園のベンチへジョアンの体を支えながら、横にさせる。
酔った時は横になるのが一番だ。
「先生、ありがとうございます。……明日も稽古があるのに参ったな……」
「次はどんな芝居をするんだい?」
「ジョン先生の『ゴミ捨て場の猫たち』というコメディーです」
あぁ、あの喜劇作家か。
コメディー色が強く、セリフの言葉も下品で、私は嫌いだ。
ジョアンの芝居を引き立てられるとは到底思えない。
ジョアンの美しい声は、あんな下品なセリフを言うためのものでは無い。
ざわざわと夜風が芝生を撫でる音がする。
夜空に浮かぶ灰色の雲は風に吹かれて、西に流れていく。
……綺麗な満月だ。
だから、こんなにも力が湧いてくるのか。
横たわるジョアンの頬を撫でる。
「ジョアン……」
私はジョアンの唇にそっとキスをした。
「ん……先生……?」
「ジョアン、私は君のこと、愛している」
「え……?」
ジョアンが困惑していると、私はその細い肩をぐっと掴み、自分の方へ引き寄せる。
そして、ジョアンの白く無防備な首筋に、真っ直ぐ歯を立てた。
「ぅあっ……先生……!」
肩にくい込む爪、それさえも幸福だ。
甘い血の香り。
ちゅう……と音を立てて、吸血行為に及ぶ。
苦しげな息遣いが次第に事を致している時の息遣いのように甘美なものへと変わっていく。
「永遠に私のものになってほしい……」
歯を抜くと、ジョアンはぐったりと私の腕の中で気を失ってしまった。
「君が男の子で本当に良かった。私は同性しか吸血鬼に出来ないから」
君がいれば、私はどんな夜も生きていけるのだ。
終劇
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