2 / 62
第2話 ②
「オルガ、この書類だが」
「はい」
俺は先週の最後に終わらせた書類を、上司から受け取ってまじまじと見た。上から確認していく。上司の反応からして、俺が何か失態を犯したのではないかと考えながら、じっくりと確認する。本来これは上司の担当分の、王弟殿下の領地の貿易収支報告書の関連資料だが――うん。どこからどう見ても、完璧だ。二度確認して、俺は小さく頷いた。
「これが、どうかなさったんですか?」
「正しすぎる」
「え?」
「……っ、こ、これでは……裏金を作っているのが、バレてしまうだろうが……」
少し声を潜め、しかしより厳しい口調で、上司が俺の耳元で言った。俺は思わず、硬直した。作成時に、計算が合わなかったので、各地に一つ一つ問合わせて、正しい金額に直したのは、確かに俺だ。事前に渡された資料は、かなりの割合で、間違っていた。が……あれは間違いではなく、間違ったままで作成しろという指示だったのか……!
「も、申し訳ございません……」
「謝っても、もう遅い。既に本日の謁見は始まっていて……国王陛下が書類をご覧になっておられる……王弟殿下が激昂していらっしゃると、宰相閣下の使いの者が私に連絡を……」
「ですが、裏金を作る方が悪いのでは?」
俺は慰める事にした。まさか俺に仕事を押し付けたとはいえ、上司は自分のミスだと考えていると思ったのだ。つまり、王弟殿下から罰を受けるとすれば、俺ではなく上司だろう――と、俺も若干、他人事で居たのである。
ともだちにシェアしよう!