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第3話
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大学でバスケをプレイした、あの日。笹良と同じチームになった。
笹良が気になった理由は、先輩に誘われてバスケの練習試合をし終えたあとに、声をかけられていたからだった。
『すごいね。あんなにスリーポイントシュートが決まったら、バスケが楽しくてしょうがないだろう?』
興奮を抑えられない感じで話しかけてきた笹良に、そのときは適当に相槌を打った。そんないい加減な返事をしたというのに、瞳を輝かせながら口を開く。
『ずっとバスケをしてきたから、試合でのスリーポイントシュートの難しさを知ってる。君とは違って俺の場合は、どんなに練習しても成果が出なくでね』
ハッキリと言いきった笹良のセリフが気になったこともあり、原因を突き止めようと考え、積極的にボールを回してやった。
見た感じ、悪いところがないように思えた。基本がとてもしっかりしていて、フォームも問題なし。指先から放たれるボールの動きの感じから、ものすごく丁寧に扱っていることがわかった。
ゴールが決まらない他の要因をさがしていたそのとき、俺が苦手だと思う角度からのスリーポイントシュートをすべく、笹良がセットポジションに入る。その姿に、はっとさせられた。
ジャンプした瞬間に飛び散る汗や、舞い上がった衝撃で、躰に貼りつくユニフォーム。他にもボールを放つ繊細な指先の動きのすべてが、スローモーションに見えた。
あまりにも魅入っていたため、ボールが飛んでいく音で、やっと我に返る始末。
笹良が放ったバスケットボールは、大きな半円を描きながら回転し、吸い込まれるようにゴールポストに飲み込まれた。
『やった! 久しぶりに決まった。加賀谷、アシストサンキューな!』
嬉しさを表すように破顔した笹良が、俺の背中を叩いてから、セットポジションに戻って行く。
動揺を隠しきれない俺は、その場に突っ立ったままでいた。ボールが目の前を掠めたというのに、カットすることもできない。
「今のは、いったいなんなんだ?」
ぞくっとするものが背筋に走った謎の衝撃は、筆舌しがたいものがある。
自分が苦手とする位置からのシュートだったからこそ魅入ってしまったのか、あるいはそれ以外の理由があるのか。原因がさっぱりわからなくて、模索しながらその後も笹良の動きに注目し続けた。
『ナイスシュート!』
点差が開いていなかったので、あえて得意のスリーを封印し、別のシュートをしたり、他のヤツにボールを回してるうちに、ゲームが終了した。
すべての試合が終わって体育館から出て行く、ひょろっとした後ろ姿を眺める。
結局笹良は、俺が魅入ったスリーポイントシュートだけしか、ゴールを決めることができなかった。
シュートが決まらない原因は、ボールを放つ際に必要以上に全身を強張らせるせいだった。
ゴールを決めなくてはいけないという妙なプレッシャーが、ボールにそのまま伝わるせいで、見事に外してしまうという、見るからに嫌なループを目の当たりにした。
多分この癖は周りだけじゃなく、本人も気がついているだろうし、指摘もされているだろう。だからこそ他人にとやかく言われたりしたら、余計に意識して外しまくるのが容易に想像ついた。
(あんなに完璧なシュートを打てるくせして、プレッシャーごときに自滅するとか、バカみたいじゃん。練習するだけ無駄だろう)
そんな情けない姿を見たくないという理由で、練習を頻繁にサボっていた。
ごくたまに練習に顔を出したときに見る、進化していない笹良の姿に、苛立ちを覚えた。イライラが頂点に達して、他のチームメイトに八つ当たりすることもあったくらいに、腹が立って仕方なかった。
そんな状態だからこそ、なるべく笹良を見ないように練習していた。ランニングやパスの練習も、離れてやっていたくらいだ。
だが試合形式の練習だと、そうはいかない。敵対して、向かい合うこともある。
天賦の才能を持つ笹良を前にしたら、自分がちっぽけな存在に思えた。嫉妬や苛立ちがプレイに出て、いつものようにゴールを決められない日が続いた。
イージーミスの連続に、日頃のおこないやその他諸々含めて、監督に叱られたりした。
全部笹良のせいなのにと、心底ムカついているところに、それが目に留まった。
ゴール下で緊張しながらボールを放つ真剣な横顔に、視線が釘付けになる。それと同時に、痛いくらいに胸が高鳴ってしまった。
ゴールを決めるという貴重な瞬間だったから、胸がドキドキしたんだとこのときは思っていた。それなのに――。
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