5 / 35
第5話
***
「笹良に話があるんだ」
加賀谷に変なことを言われて以来、気持ち悪くて思いっきり避けていた。それなのに、こうしてしつこく話しかけてくる。
「悪いけど、話をする気になれない」
持っている文庫本に視線を落とした。目の前の相手をスルーすべく、栞を挟んだページを素早く開き、印刷された文字を追いかける。
「弁解させてほしいんだ!」
「弁解?」
必死な様子を表すような声色を聞いて、仕方なく顔をあげた。加賀谷は俺を見ずに、落ち着きなく両目を泳がせながら口を開く。
「心にもないことを口走った件について、その……。話の内容が特殊だから、授業が終わってからふたりきりで話がしたい」
ふたりきりで話がしたいというワードに、引っかかりを覚えた。危ない可能性があるのが明白だ。
「加賀谷が俺に二度とつきまとわないと約束するなら、顔を出してやってもいい」
「ああ、約束する。短時間で済ませるから。場所は」
「体育館がいい。今日は練習がオフなんだ」
ふたりきりでも距離がたくさんとれるであろう、体育館を提案したのはナイスだと思える。
「わかった。必ず来いよな」
悲壮感を漂わせながら念押しした加賀谷は、俺の視線を振り切るように去って行った。明らかにいつもと違う様子に、嫌な予感が胸の辺りに充満しはじめたのだった。
ともだちにシェアしよう!