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第16話

「大丈夫か?」 「加賀谷は物珍しさで、俺を好きになったんだろ」  心配される言葉をなきものにするセリフを、さらりと口走ってみた。 「物珍しさ? う~ん、どっちかっていうと、インスピレーションかなぁ。自分に持ってないものがある相手に、ぐぐっと惹かれたりしないか?」  小首を傾げながら訊ねられても、すぐに答えられなかった。間近でじっと見つめられるせいで、嘘をつくことができない。  試合でどんなに追い込まれた状況下でも諦めず、自分を信じてシュートを決め続ける加賀谷に、憧れずにはいられなかった。イップスのせいで練習をしていても投げやりだった俺とは違い、楽しそうにバスケをプレイするコイツに、惹かれずにはいられない。 「笹良ってば、さっきよりも、顔が真っ赤になってる」  心の奥底に仕舞いこんでいた素直な気持ちを悟った途端に、それが顔色に出てしまったらしい。どうしていいかわからず、視線を右往左往させた。 「これはきっと、泣きすぎたせいだって。気にするな」 「だったら、もっと泣かせることをしてもいいか?」  意外な切り返しに驚き、彷徨わせていた視線を加賀谷に縫いつける。 「駄目に決まってるだろ。やめろよ」  笑いながら遠慮なく近づける顔を、片手で押しのけてやった。 「笹良の本音が知りたいんだ。教えろって」  押しのけているのにもかかわらず、イケメンを変形させながらも果敢に挑んでくる。なりふり構わないその態度に、あることが頭の中で閃いた。 「駄目って言ってるだろ! 目立つ加賀谷が俺の傍にいたら、変な目で見られるんだから」  動きを止めるために発した、俺の言葉の威力が効いたらしい。加賀谷の動きが、ぴたっと止まった。  最初は不思議そうな顔をしていたのに、次の瞬間には何を言ってるんだという表情で、まじまじと俺を見つめる。 「は? そんな理由で嫌がっていたのか。人の目なんか、全然気にしないのに」 「俺が気になるんだって。陰キャの俺のせいで、加賀谷が悪く言われるの嫌だし、今以上に仲良くなったら困る」 「どうして?」 「加賀谷を失ったときに、立ち直れない気がするから。イップスになったときみたいに、苦しむのがわかる」  ぽつぽつと心情を語った、俺の言葉を聞いた加賀谷の両腕が、痛いくらいに巻きついた。 「それって、俺のことが好きってことなのか?」 「やっ、これは」 「ちゃんと自分の気持ちを白状しないと、この場に押し倒すぞ」  突きつけられたセリフにパニくり、頭の中が一気に真っ白になった。強く抱きしめられることすら、感じられない状態にひどく戸惑いながら、大声で告げる。 「すっ、好きなんかじゃない! そんな感情じゃなくて、憧れてるというか、なんかそういう感じなん」  俺の言葉の続きを奪う唇は、さっきよりも激しいものだった。 「ンンッ、ぁっ、はあぁ……」  噛みつくようなキス。呼吸のしかたを忘れるくらいの激しいそれに、唇が離れるタイミングで、やっと息継ぎをする。絡められる肉厚の舌が、俺の舌に執拗に絡んで、ぞくりと感じさせた。 「加賀谷っ、もぅやめっ」  抱きしめられていた躰は解放されたものの、加賀谷の両手は俺が逃げないように腕まで絡めて、顔をがっちりと掴んでいた。  俺のほうが身長が高いため、ちょっとだけ屈む形でキスされている。刺激された分だけ、涎が滴るように口内に溢れまくった。加賀谷はそれを飲み込みながら、たまに唇の角度を変えて、俺を責め続ける。  体育館に卑猥な水音が響き渡り、余計に羞恥心がくすぐられる一方で、躰がじんじん熱くなっていった。 「あ、あっ、苦しい、ぃっ」  息も絶えだえ訴えたら、やっと唇が離された。  目の前にある、加賀谷の一重まぶたが意味深に細められたのを見ただけなのに、なぜだか胸の奥がドキッとした。妙なその感覚に慌てて、胸元をぎゅっと押さえる。 「笹良って、すげぇエロい声を出すのな」  酸欠で頭がまわらないときに指摘されたことで、顔がぶわっと赤くなるのがわかった。そんな顔を見せたくないのに、加賀谷の両腕が俺の首に絡んで放さない状態なので、俯かせられない。

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