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第13話

 翌朝。  真白の夢を見ないことへの違和感がまだ消えない。  いつになったら俺は普通に目を覚ますことが出来るんだ。  俺は頭を軽く振って、気持ちを切り替えようとした。  そんなことで何かが変わるわけじゃないけど、何かしないと気が済まない。 「……ふぅ」  俺は深く息を吐いて、いつものように制服に着替えた。 ――― ―― 「おはよう、至」 「……」  玄関のドアを開けると、今日もアイツがいた。  飽きもせずよく続くもんだ。  俺は無視して学校へと向かった。 「今日は夕方から雨らしいぞ。傘は持っているのか?」 「え」  無視しようと思っていたのに、俺は思わず声が出てしまった。  そういえば、朝ごはん食べてるときに母さんが言っていたかもしれない。ボーっとしてたから聞き流しちゃってた。  どうしよう。でも引き返すのは恥ずかしい。  まぁいいや。明日は学校休みだし、最悪濡れて帰っても問題ないだろう。 「忘れたのか? なら俺が出してやろうか」 「べ、別にいらない」  出すって何だよ。またそういう周りに聞かれたら恥ずかしくなるような非日常ワードを出すな。  くそ。無視したいのに、出来なかった。 「……なぁ至。昨日はあまり眠れなかったのか? 顔色が悪いな」 「……誰のせいだと思ってんだよ」 「俺のせいか。それはすまない」 「そう思うなら、俺の前に現れるな」 「それは難しいな。ようやく会えたというのに」 「だから、俺はお前が捜してた真白じゃないって何度言わせるんだ」  ああ。イライラする。  急に頭が痛くなってきた。全部コイツのせいだ。  コイツが真白を思わせるようなこと言うからいけない。 「そんなに、過去のことが気になるのか?」 「は?」 「お前は真白と俺のことを気にしすぎではないか?」 「……っ気にするなって方が無理だろ! 俺はお前たちのせいで15年間もずっと同じ夢を見続けていたんだぞ!」  俺は立ち止まり、拳をきつく握りしめた。  なんだよ、悩んでる俺がおかしいのか?  お前らに振り回されてるのは俺なのに。  それなのに、なんでお前はそんな軽く言葉を吐き出せる。  会いたかったとか、愛してるとか、それは俺じゃなくて真白への言葉だろ。軽々しく俺に言うな。 「俺は、お前らのせいで自分が、自分のことが分からなくなってるのに……なんでお前はそんなにヘラヘラしてんだよ! 真白だって勝手に俺の中から消えて、残された俺はどうしたらいいんだ!? 真白が勝手に残していったお前への思いを、どうやって片付ければいい!? 俺はお前のことなんか知らないのに、お前のことが好きだっていう真白の思いのせいでお前のことを好きにならなきゃいけないのかよ!」  ポタポタと、地面に雫が落ちる。  叫びながら、俺は泣いていたらしい。  泣きながら叫んだせいで喉の奥が痛い。  もう、どうしていいのか分からないよ。 「……至」 「お前だって、真白が好きなら俺なんかを好きになるなよ。俺が真白じゃないなら、真白になれないなら、俺を好きになるな……!」 「至」 「俺はお前のことなんか好きになりたくない……真白の気持ちに影響されただけのこんな想いなんか、俺の心じゃない! こんなの、俺じゃない……!」 「至!」 「っ!」  力強い声で呼ばれ、俺は思わず顔を上げた。  アイツが真っ直ぐ俺のことを見つめてる。目が離せない。  やめてくれ。  俺を、その目に映さないでくれ。 「至。お前の気持ちを考えず、勝手なことをしたことは謝ろう。だが、お前の心はお前だけのものだ。その中に誰も入ることは出来ない。それは真白であってもだ」 「……どういう、意味だよ」 「真白に影響を受けたと言ってるが、人の心はそんな簡単に他人に染まらない。確かにお前は真白の生まれ変わりだ。でも、その心はお前だけのものだろう」 「……でも」 「言ったはずだ。お前は真白になれないと。前世の記憶を見続けたせいで混乱してるだけだ。落ち着いて、自分の心を向き合え」 「……じゃあ、なんで俺はお前に会いたいって思うんだ。お前のことを考えて、泣きたくなる。俺はお前と会ったのは最近なのに。お前自身のことを何も知らないのに」 「確かに俺と会ったのは最近だな。でも、ずっと夢で見てきたんだろう?」  確かに、そうだ。  こうして会うのはこの前が初めてだけど、コイツのことは夢で見てきた。真白の目線でずっと見てきた。  じゃあ、俺はずっと夢の中で見ていたコイツに会いたいと思っていたのか?  なんだよ、それ。テレビの中の芸能人にマジで惚れるようなものだろ。痛い奴じゃん。  夢の中でずっとコイツに愛されてた真白を羨ましがって、真白になりたくてもなれない自分を俺は否定し続けていたのか。  そして、そのことすら受け入れられなくて、色んなものを否定していた。  ああ、そうか。  俺は真白に嫉妬してたんだ。

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