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Ωになりました
春爛漫、漸く、受験競争から抜け出し、諸手を挙げた瞬間──
オレは奈落の底に落とされた。
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「ええっと?コレは、何ですか?」
桃色の包装紙に包まれた箱を手渡され、オレは首を傾げる。
「女性用の避妊具です」
渡して来た養護教諭の木下さんは至って普通にそう返して来た。
「否、オレ、男ですけど?」
「ええ、知っていますよ。でも、貴方、Ωでしょう?」
木下さんはそう言って、他の女子生徒らにも同じ桃色の包装紙に包まれた箱を一人一人に手渡して行く。
「え?ちょ、Ωってなんですか?」
聞き慣れない不思議な単語に、オレは木下さんに喰らい付く。
木下さんは冷静にこう言う。
「繁殖を専門とする人種の事です」
と。
更に、困惑するオレは奇妙な声と共にその単語を復唱する。
「へぇ?繁殖ですか?」
ソレなのに、木下さんはオレが理解したと思って言葉を重ね、同意を求める。
「ええ、妊娠可能な身体を持ったと言えば、理解してくれますか?」
だから、理解出来ませんと諸に顔に出し、オレが木下さんの袖を掴むと、木下さんは酷く面倒臭そうにこう続けた。
「雌猫と同じです。三ヶ月に一回発情期が来るだけです。生理はありません。交尾排卵ですから、のた打ち廻りだけです」
猫の発情期を思い浮かべて下さいなんて、動物並みの本能を突き立てられる。否、理性が勝って欲しいですと言っても、木下さんはソレは無理な相談でしょうと即答だった。
そして、オレらの周囲にいたあざとい女子生徒らからは、
「えっ!男のΩって生理来ないの?いいな」
などと変な所で羨ましがられてしまう。
オレは女子じゃないから生理の辛さは解らないが、発情期来る度にのた打ち廻らないといけないとなると複雑な気持ちだった。
ソレに、今更、こう思うのはアレだが、女子と一緒の括りに嫌な予感がする。もしかして、オレって男と結婚しないといけない?そう思ったら、自然と言葉に出てた。
「…オレ、同性愛は…勘弁して欲しいです」
と。
すると、木下さんは蔓延な笑みで、
「大丈夫です。女のαは精巣を持っていますから妊娠可能です」
そう言うと、木下さんの隣にいた女子生徒をオレの前に押しやった。
女子生徒は嫌がりはしないが、そこそこ不機嫌そうな顔でオレと木下さんを交互に見る。そんな風な視線で見ないで下さいと、彼女に視線を送るがソレが逆効果になる。
そして、木下さんの真っ直ぐな養護魂にオレは呆れるしかなかった。
「コレが女のαです。匂いを嗅いでαの匂いを覚えて下さい」
そう言う木下さんの顔は諸に真顔で、セクハラですよと軽い口調で言えるモノではない。況してや、クンクンして下さいとオレの顔をその女子生徒の胸に押し付けようとする。
木下さん、早まってはいけませんよ!!
「がっ!ちょ!止めて下さいって!!」
ハウス、ハウス、ステイ!そんな事出来ませんと言ったら、
「別に、恥ずかしがらなくとも大丈夫です。彼女は既に番になっていますから、神谷くんを性対象として見ていませんから」
オレよりも酷い言い廻しをされてしまい、上には上がいるモノだと感心しつつも、
「オレ、男ですから、そう言うのは勘弁して下さい」
と言えば、
「何、言っているのですか?番になった女のαやココにいる全てのβの女とΩの女から言わせれば、神谷くん、貴方は既に同属ですよ」
男として見なされていませんとハッキリとそう言われてしまう。幾らオレでも、コレばっかしは喪心感が一杯で立ち直れなかった。
「因みにですが、番になったαとΩには誰であろうと手出し出来ませんから」
αの匂いを覚えて他の女のαを探して下さいと豆知識みたいな事を言われたが、オレの耳には入って来なかった。ショックは思った以上に大きかった。
「そして、発情期にココぞとばかりにその女のαを誘惑してモノにして下さい。運が良ければ番になれます。嗚呼、その際はちゃんと避妊具の着用を忘れずに!!」
いいですか!!と避妊具の着用部分は物凄く強調して言われた。こう言うのは、ちゃんと聞こえるようだ。
だから、オレは恐る恐る、
「避妊具を着用し忘れると?」
そう聞くと、
「妊娠確定です」
酷い剣幕で木下さんにそう言われ、
「学生の本分は勉学です。繁殖行為に現を抜かすような事があれば、どうなるか解っていますよね?とは言え、そう簡単に本能が理性に勝てるハズがありませんから、こうして入学と同時に女子生徒には避妊具を一人一人にお配りしているのです。解りましたか?」
こうもくどくどと避妊具の着用を念押しされてしまったら、要らないとは言えなかった。
しかも、アレ程、木下さんに説明されてオレが理解した事は、
「…あの、結局は、オレ、ブチ込まれるって事ですか?」
だった。
「そうですね。男女問わずΩは精巣を持っていませんから、勃起はしないと思いますよ」
木下さんは酷く重要な事をさらりと言い退けてしまう。
「では、講習はココまでです」
と手を叩き、生徒の解散を促す。
「嗚呼、神谷くん、ココの学生で男のΩは貴方だけですから、解らない事があれば私に聞きに来て下さいね」
木下さんは爽やかにそう言い残すと、さっさと立ち去ってしまった。
そうして、オレは入学早々男として立ち上がれない奈落の底に突き落とされ、男のΩと言うモノになりました。
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