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植え付けられそうでした
オレが桃色の包装紙に包まれた箱を持って、教室に戻れば、「お、Ωちゃん」等と変な渾名が付けられていた。
「ソレ、止めてくれませんか?オレ、時次って言う名前があるんですけど?」
同級生なのに、敬語を使うのは同中じゃないから。
「ええー、神谷ちゃんって言うのも時次ちゃんって言うのも可愛くないじゃん」
Ωちゃんにしようよと駄々を捏ねるのは、緑川蒼汰。
名前の通り、頭は緑と蒼の組合せ。今時、そんな色を指定する馬鹿が居たもんだと入学式に思っていたら、同じ教室だった。
「ハイハーイ、緑川くん、神谷くんを一人占めしないでね」
そう言ってオレの事を動物園の絶滅危惧種扱いみたいな事をするコイツは、五十嵐浩司。
黒渕眼鏡がよく似合う二枚目。モテる要素は全て持ち合わせています的な超怪人並みの出来るヤツ。αと言っても、不思議ではなかった。
とは言っても、女のαの匂いを嗅がせて貰ったがイマイチαの匂いが解らなかったから、五十嵐がαと言う根拠は全くと言ってなかった。
ソレに、オレはαやβ、Ωと言う単語を高校に入学するまで全く知らなかったから区別がどうも解らない。
ま、住んでいた場所がド田舎だったとも言えるが、そもそも、人口が二人と言う環境下で育ったオレにそう言う知識が必要だったとは思えないし、育った環境で常識の格差があるのは当然の事だと理解して貰いたい。ソレは兎も角、木下さんが言うには一昔まではそのαβΩと言う間柄で社会的格差があったらしい。
あったらしいと言うのは、文献でしかそう記されていないからだ。今ではそう言う社会的格差はなく、平等でちゃんと人権が守られているらしい。人間同士だから、多少のいざこざはあるらしいから。
だから、多分、オレが異中だとしてもΩだとしてもハバチにされる事はないだろうとそう踏んでいる。現に、木下さんも女子生徒も緑川も五十嵐も普通に接してくれているし。苛められなければ、ソレで問題ない。
オレは安易にそう思っていたが、意外にソレは簡単に覆される。
「じゃ、神谷くん、この中から一枚だけ紙を引いてくれたまえ」
「ハア?」
五十嵐がそう蔓延の笑みで、籤(クジ)が入った箱を差し出して来た。
「何ですか?コレは?」
「ああ、席替えのクジだよ。Ωちゃんの隣に座りたい人がこんなに沢山いるから平等にって」
緑川はそう言い、箱の中に入っている紙はこの教室にいる全員の名前が一枚一枚書かれていると言う。
「さ、左様で御座いますか…」
オレはオレの預かりしれない所でいざこざの中心核になっていた。
瞬時に思った事は、異中、恐ろしいだ。
そろそろ、時次も社会復帰をしても良い頃合いだろうと言った真弥さんが憎い。育ての親だけど、オレは真剣にそう思った。
「さ、早く」
キラキラとした瞳で教室中の生徒に見られてしまったら、引くに引けない。
「あの、どうしてもコレを引かなければいけませんか?」
怖じ気付いたオレがそう聞くと、「大丈夫、毎日、一枚ずつ籤を引く事になってるから」と蔓延な笑みで、さ、ご遠慮なく第一引きをどうぞと言う。
そう言われてしまうと、ますます籤を引き難くなってしまった。
「ええと、オレ、先生の隣で良いですか?」
咄嗟に、自分の机を教卓に横付けしてオレは逃げた。後ろを振り向く勇気が全然なく、ふるふると震えていたら、「仕方がないな。神谷くんがそう決めちゃったからにはそう簡単には覆せれないよね?」と五十嵐がソレはもう刺々しくそう纏め、「だよな。Ωちゃんがソコが良いって言うんだから仕方がないよな?」等と緑川もそう同意して嗤ってくれてはいるけど、その声は全くと言って良いくらい平穏に嗤ってはいなかった。
こうして、オレはオレの人生で初めて同級生を怒らすと怖いと言う恐怖を根強く植え付けられそうでした。
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